主婦と科学。
家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所

研究レポート69
その3
電磁波って、危険なの?


ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。

5回にわたっておおくりしている「電磁波の科学」。
今回は第3回です。

かなり前のことになりますが
カソウケンのホームページの掲示板に
次のような質問が書き込まれました。

パソコンを常時使用している人は、頭に熱がこもりやすく
難産になりやすいと聞いたのですが本当ですか?
最近出産した知り合いは、PCでお仕事をしていた人で
とてもお産が難航してしまったらしく
助産婦さんに「PCを使っているから仕方ないわね」と
頭にリングを張られ、あちらこちらに針を打ってもらい
やっとこさ出産したそうです。電磁波のせいなんですか?

「頭にリング」!!!
‥‥ちょっと冷静に考えれば荒唐無稽に思える話です。
でも、いざ当事者になってしまうと
「確かに電磁波のせいかも」と
不安に駆られてしまう可能性もなきにしもあらず
(どっちだ?)。
研究員Aだって
出産の混乱のさなかにそんなこと言われたら
「あああっ、確かにうちはパソコン8台もあるし〜」と
血迷ってしまう‥‥かもしれない。

こんな感じの
「なんだか不安になってしまう電磁波情報」は
巷に溢れています。
書店でもネットでも
「電磁波対策、大丈夫ですか?」
「万病の元である電磁波を排除しましょう」
なんて文字が踊っているのを見れば‥‥ねえ。

「電磁波ばなし」のうち
普段暮らしている上で
一番気になるのは
そのあたりじゃないでしょうか。
そこで今回は
「電磁波ってほんとうに危険なの?」について
レポートしたいと思います〜。

電磁波はキケン! とする論文に
与えられた評価は“オールC”でした!

「電磁波と言ってもその種類はいろいろ」
とお伝えしてきました。
「人体に悪いの?大丈夫なの?」と
問題になっているのは

・携帯電話(800MHz・1.5GHz)の電界
・電子レンジ(2.45GHz)の電界
・送電線や配電線から出る
 「超低周波」の磁界


であります。
注)「電界」「磁界」の意味
 電磁波は「電波」と「磁波」の組み合わせであると
 第1回で説明しました。
 電界は「電波の作る場」、磁界は「磁波の作る場」
 ‥‥くらいの認識で読み進めて頂けたらと思います。

2年前に新聞等のメディアで
「電磁波は小児白血病発症率が倍増する」
という、ただならぬ研究結果が発表されて、
世間を騒がせました。

これを見て
「電子レンジ捨てなきゃ!」
‥‥などなど家中の電化製品を総見直しした方も
いらっしゃるかもしれません。
行動に移さないまでも
「電磁波ってほんとうに恐ろしいのね」
というイメージができあがってしまったかも。

でも、この話には「続き」がありまして‥‥。
上記の研究は文部省の科学技術振興調整費
‥‥通称「科研費」と呼ばれる予算を使ったもの。
その総額なんと7億2000万円!
それだけのお金を使っている研究です。
だから、文部科学省が科研費を使った研究に対して
「この研究成果はいかがなものか?」
と評価を下します。

そして、上にあげた研究に対して与えられた評価は"C"。
ちなみにCは「優れた研究ではなかった」
という位置づけ。‥‥み、身も蓋もない〜。

ちなみに、同年の年間1億円以上の科研費を支給された
他の大型研究の評価も見てみましょう。
"A"が25、"B"が8、"C"が1。
‥‥要するに、このたった1つのCが
例の「電磁波と小児白血病」の研究です。
しかも、すべての評価項目でCであると。

もちろん、これは単なる一例。
でも、いわゆる「電磁波リスク研究」に関して
象徴的な例かも、と研究員Aは思うのです。

身近な電磁波は
どのくらいキケンなの?
という指標があります。

電磁波が人体に影響を及ぼすか否か?の研究は
数多くされていますが
今のところシロクロはっきりつけられるような
決定打が出ていないのが現状。

「どうやらこの病気と関連あるらしい」
という結果が出たとしても、一方で
「いやいやそんな関連は見られないよ」
という結果も出ている。
注)でもこれだけは言えます。
  「電磁波防止グッズ」などを
  販売している会社が言うような
  「電磁波は危険であると証明されている」
  というのはウソ!

そもそも、この手の「疫学研究」は難しいんですよね。
ある関連が見られたとしても
それが「電磁波」のせいなのか
それとも他の要因のせいなのか‥‥区別が付けにくい!

とはいえ「絶対に安全である!」とは宣言できない
「グレーゾーン」にあることは確かな電磁波。
国際がん研究機関(IARC)では
「発ガン性分類」という指標を作っています。
参考:IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans
   IARC発がん性リスク一覧

その中にある「身近なもの」を抜粋して
表を作ってみました。

グループ1 人に対して発癌性がある 太陽光・X線・タバコ・
アルコール飲料
グループ2A 人に対しておそらく
発癌性がある
紫外線
グループ2B 人に対して発癌性が
あるかもしれない
低周波磁界・コーヒー・漬物
グループ3 人に対する発癌性については
分類できない
コレステロール・茶・
カフェイン・超低周波電界

この指標では「低周波磁界」
(送電線・家電などから出る)をグループ2B
「低周波電界」(携帯電話から出る)を
グループ3と分類しています。

「グループ○○」として取り上げられた、と聞くと
「かなりやばそう」と思いますが
他のものと一緒にして並べてみると‥‥
なんだか「微妙」になってきませんか?

ちょっとだけ堅苦しい話になりますが‥‥
ここで、ちょっと「リスク」と「危険性」
の違いについて考えてみましょう。
上であげられた物質は
「(ガンになる)リスク」がある、とされるものです。
そして電磁波もそのリスクが疑われている、と。

でも、リスクには「程度」があるわけです。
タバコもコーヒーも電磁波も「リスク」はありますが
「危険性」の程度が違う。

どんなリスクも排除して
生きることができたらなにより、です。
でもそれは難しいこと。
だから「危険性」というモノサシを頭に入れて
排除する優先度を考えるのが賢いやりかたのはずです。

そして、「リスク」と「ベネフィット」の関係も
考える必要がありそうですよね。
例えば、自動車。これは交通事故になる確率が高く
実は「死と隣り合わせ」と言えるかもしれない危険なモノ。
でも、「便利さには代えられない」と
多くの人が利用するのです。

具体的に考えてみましょう。
電磁波が怖いからと、家電製品を排除した部屋を作り
その部屋でタバコを吸っていたら‥‥。
これは「危険性」を考慮していない行為かも?

電気製品と一切縁を切ってしまい
そのせいで家族の「生活の質」が急低下してしまったら‥‥。
これは「ベネフィット」を考慮していない行為かも?

電磁波のガンリスクがクラス"2B" "3"ということに対し
人によって思うところはさまざまでしょう。
でも「リスク」「危険性」「ベネフィット」‥‥などなど
バランスを考えて
「楽しく生活」を送ることができるラインを
ひとりひとりが探せるといいですね。

まとめがわりに、科学者であり随筆家である
寺田寅彦のひとことをあげておきます。

ものを怖がらな過ぎたり、
怖がりすぎたりするのはやさしいが、
正当に怖がることはなかなかむずかしい。
──寺田寅彦

(つづきます!)




参考文献
  『環境リスク学』 中西準子著 日本評論社

参考サイト
  国立環境研究所・環境科学解説【電磁波の人体への影響】
市民のための環境学ガイド
BEMSJの「電磁波(電磁界)の健康影響」講座
四国電力「電磁界ってこんなもの」


2005-11-25
-FRI


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