山下 |
はあ~、ぜんぜん嫌がりませんね。
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村田 |
はい。
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山下 |
ええと、このうさぎの種類は‥‥。
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村田 |
ライオンラビットです。
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うさぎと飼い主たちが公園に集り、
散歩をしながら交流を深める‥‥。
そんな「ラビットミーティング」という
催しを知ったのは、ひと月ほど前のことでした。
当然僕は思いつきます、
「行けば、うさぎを愛する男に必ず会える」
そして、当日。
バスを乗り継いで訪れた広場では、
予想を超える数のうさぎが跳ねていました。
その数ざっと60羽。
80名ほどの飼い主さんは、ほとんどが女性です。
その中から僕は、家族連れでいらしていた男性、
村田剛さんを目ざとく発見。
村田さんは、とても恥ずかしそうにしながらも
取材に応じてくださいました。
非常にシャイなご様子の方が、
見知らぬ僕を受け入れてくれたのです。
それはきっと、
僕も自分のうさぎを連れてきたからでしょう。 |

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山下 |
僕のはその中にいるのですが‥‥。
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村田 |
出してあげないんですか?
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山下 |
それが、そとに連れ出すのは初めてでして、
しかも、抱っこを強く嫌がるのです。
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村田 |
そうなんですか。
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山下 |
はい、5秒と抱かせてはくれません。
とても村田さんのうさぎのようには‥‥。
あ、名前をうかがってませんでしたね。
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村田 |
なな、といいます。
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山下 |
ななちゃん。女の子ですか。
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村田 |
はい。
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山下 |
名前の由来とか、あります?
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村田 |
由来ですか‥‥。ま、まあ、それは‥‥。
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山下 |
さしつかえなければぜひ教えてください。
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村田 |
‥‥松嶋菜々子さんからとって、なな、と。
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それから僕と村田さんは、
たくさんのうさぎを見てまわることにしました。
村田さんは、ななちゃんを肩に乗せて。
僕は自分のうさぎが入ったキャリーを持って。 |
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山下 |
このコも、おとなしく抱かれてますねえ。
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村田 |
まだ赤ちゃんですね。
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山下 |
あ、ええと、この散歩用のヒモのこと、
なんていうんでしたっけ?
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村田 |
ハーネス、ですか。
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山下 |
そう、ハーネス。僕も持っているのですが、
うちのうさぎは見るだけで逃げてしまいます。
ハーネスを嫌う種類なのでしょうか‥‥。
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村田 |
山下さんのうさぎはロップイヤーですよね。
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山下 |
ええ、耳の垂れたやつです。
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村田 |
それでしたら、そこに‥‥。
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山下 |
あ! やっぱりそうかあ‥‥。
そりゃあロップイヤーだからハーネスを嫌う
ということはないですよねえ‥‥。
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村田 |
そういう個性なのでしょうね。
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山下 |
はあ(ため息)。
このコもおりこうそうですねえ。
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村田 |
こっちにも赤ちゃんがいますよ。
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山下 |
カバンの中に入ってる‥‥。
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村田 |
逃げないんですね、こうしてても。
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山下 |
ん? わわ、村田さん見てください、
ひざの上で、あお向けになっています。
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村田 |
よくなれてますね。
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山下 |
僕のうさぎでは考えられない状態です。
こんなことをしようものなら大暴れですよ。
‥‥うらやましいです、ほんとに。
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村田 |
‥‥いいですよね、うさぎは(しみじみ)。
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山下 |
やはりかわいいですか。
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村田 |
正直なところ、かわいくて仕方がありません。
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山下 |
どんなときにそれを感じます?
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村田 |
あのですね、私が会社から帰ってきまして、
こう、玄関を開けますよね、すると、
ちょこんと、いるんですよ、ななが。
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山下 |
(笑)それはそれは。
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村田 |
家内と息子が言うには、私の気配を感じると
自分で一生懸命ケージのとびらを開けて
勝手に出むかえにいくのだそうです。
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山下 |
ああ、村田さんのことが大好きなんですねえ。
おとなしく抱っこをさせるわけです。
それにひきかえ、僕のうさぎは‥‥。
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村田 |
‥‥あの、でもですね、山下さん、
なながおとなしくしてるのは、
こうしてそとにいるからなんですよ。
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山下 |
ん? どういうことでしょう?
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村田 |
ななも家の中では、こんなに長いこと
抱っこさせてくれませんから。
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山下 |
そうなんですか。
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村田 |
ええ、そりゃもう、わがままですよ。
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山下 |
そとに連れてくるとおとなしくなる、と。
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村田 |
ええ、そうですね。
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山下 |
‥‥‥‥‥‥村田さん、僕やってみます。
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村田 |
え?
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山下 |
(しゃがむ)ここで抱っこしてみます。
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村田 |
そうですか‥‥。
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山下 |
大丈夫だよな、パンク。
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村田 |
あ、パンクという名前なんですね。
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山下 |
はい。
‥‥いくぞ、パンク(鉄格子を開ける)。
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村田 |
あ。
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山下 |
あ、あ、あ。
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村田 |
まずいですね。
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山下 |
ぱ、パンク! 待て! 待ちなさい!!
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申し上げておきますが、
「取材をおもしろくするために」
などという考えは誓ってありませんでした。
ただひたすら、うらやましかったのです。
ハーネスで散歩とか、してみたかったのです。
脱兎のごとく、という言葉があります。
まさに、それでした。
会場となった広場は大騒ぎ。
猛スピードで開場を駆け回るパンク。
必死に追いかける僕と村田さん。
やがてパンクは広場を飛び出し、
草むらに突入していってしまいました。

撮っている場合ではないのですが1枚だけ。
広い公園です。
人が入れない場所に、もぐり込みでもしたら、
もう捕まえるのは不可能‥‥。
僕は、頭が真っ白になりました。
そのときです。
参加者の中から躍り出たふたつの影が、
僕と村田さんに素早く合流したのです。
ふたつの影は‥‥おじさんでした。
大多数の女性参加者の中にまぎれていた
2名の男性が、加勢しにきてくれたのです。
「はいっ、そっち行きましたあ!」
「よし! 向こうに先まわりです!」
「そこで、はさみうちにしますよお!」
4人の男が全力で走り回ること約10分。
気がつけば、公園に隣接する民家の庭。
追い詰められたパンクは、
古タイヤのすき間でふるえていました。
無事、捕まえることができたのです。 |
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山下 |
み、みなさん、ありがとうございました!
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村田 |
よかったです。
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男性A |
いやあ、よかったよかった(拍手)。
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男性B |
あやうく野良うさぎになるところでした(笑)。
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山下 |
‥‥あの、はじめまして、山下と申します。
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男性A |
あ、どうもどうも、加島と申します。
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男性B |
はじめまして、佐藤です。
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村田 |
村田です。
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山下 |
一時はどうなることかと‥‥。
ほんとうに、みなさんのお陰です。
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加島 |
いえいえ、こちらこそ、
いいものを見せてもらいました。
あれが野生の姿なんですよねえ。
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佐藤 |
うん、はやかったー(笑)。
あれこそ、うさぎです。
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山下 |
そう言っていただけると‥‥。
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村田 |
あのお、山下さん。
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山下 |
ああ、村田さん、ごめんなさい、
取材がこんなことになってしまって。
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村田 |
いえいえ。‥‥それよりほら、
写真コンテストの結果を発表してますよ。
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すっかり忘れていました。
当日僕は、パンクの写真をコンテストに
ノミネートしていたのでした。
参加者に赤いシールを配って、
それぞれがカワイイと思う写真にそれを貼り、
いちばんシールの多い写真が優勝、
そんなシステムです。
僕たち4人が駆けつけると、
表彰式はちょうど終わったところでした。 |
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山下 |
こ、これは‥‥。
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村田 |
うーん‥‥。
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山下 |
パンク、ゼロ票。
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加島 |
‥‥いや、あの山下さん、
うちのもそんなに貼られてませんでしたから。
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佐藤 |
おお、優勝者の写真はさすがに素晴しいです。
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グラちゃん(♀・生後9ケ月) |
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飼い主/立川市・奥田泰雅さん、由美子さん |
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村田 |
ネザーランド・ドワーフですね。
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加島 |
これは、かわいい‥‥。
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佐藤 |
みごとな写真です。
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山下 |
ぜ、ゼロ票‥‥。
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加島 |
(笑)実物がかわいければいいじゃないですか。
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山下 |
‥‥はい(ため息)。
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村田 |
あっ、山下さん、見てください。
うちのななが、ほら。
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加島&
佐藤 |
おおー。
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村田 |
なぐさめているように見えるのは、
これ、気のせいでしょうか‥‥。
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村田さんとななちゃん、
加島茂さん(推定35才)に励まされ、
佐藤隆さん(39)には
手作りの本を見せていただき、
僕とパンクは会場をあとにしました。
バスを乗り継ぎ、わが家に到着。
キャリーから出たパンクは、
さすがにだいぶ疲れた様子で
ころんと床に寝ころびます。
「‥‥怖い思いをさせてすまなかった」
僕はそう言いながら、
小さな頭を幾度もなでるのでありました。 |
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