山下 |
こちらは、アラジンの。 |
藤本 |
ええ、アメリカのアラジン社の魔法瓶です。
スタンダードなのがええかなと思って。 |
山下 |
はい、もう、たいへんかわいいです。
‥‥あの、藤本さん、
こんなところで立ち話もあれですし、
せっかくですから座りませんか?
きょうはぜひともピクニックスタイルで
取材を行いたいのです。 |
大阪にお住まいの藤本智士さん(妻子有り)は、
編集などのお仕事などをなさっている32歳。
この日、お仕事の打ち合わせで
東京へいらしていた藤本さんは、
旅のお荷物を抱えて
代々木公園までやってきてくださいました。
そんな藤本さんに座っていただくべく、
僕は持参したレジャーシートを広げます。 |
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山下 |
(シートを広げる)よいしょっと。 |
藤本 |
あ、手伝いますよ(シートを広げる)。 |
山下 |
すみません恐れ入ります。
で、ここに荷物をポンと置いて‥‥。 |
藤本 |
おお、いいですねえ。 |
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山下 |
さあ、ちょっとせまいですが、
どうぞ座ってください(座る)。 |
藤本 |
では、失礼して(座る)。 |
山下 |
いやあ、ははは、気持ちいいですねえ。
‥‥ん? 藤本さん、
すいとうが、もう1本ありますが。 |
藤本 |
あ、これ、
これは僕が最初に買ったすいとうなんです。 |
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山下 |
最初というのは、
おとなになってから最初ということですか。 |
藤本 |
そうですそうです、2年くらい前ですか、
すいとうを持って歩いて使おうと決めて、
最初に買うたのがこれなんです。 |
山下 |
常に持ち歩いているんですか。 |
藤本 |
ええ、毎日。たまに忘れたりすると、
いちにち落ち着かないんです(笑)。
もう、シールを貼ってはがしたりしてるから
たいがい、きちゃないんですけど、
僕にとってはこの、きちゃなさも込みで
やっぱりかわいいんですねえ。 |
山下 |
シール、かわいいです。 |
藤本 |
これは「すいとんくん」といいまして
「すいとう帖委員会」の
キャラクターなんですよ。 |
山下 |
「すいとう帖委員会」、それはあれですよね、
藤本さんがなさっている
すいとうを広げる活動の。 |
藤本 |
ええ、そうです、
みんなで1本ずつ自分のすいとうを持とうよ
っていう、そういう委員会なんです。 |
山下 |
お噂はうかがっておりました。
そもそも、すいとうを広めようと思った
きっかけなどは? |
藤本 |
きっかけは‥‥‥‥。
ま、その前に、飲みましょうか。 |
山下 |
そうですね、飲みましょう飲みましょう。 |
藤本 |
(すいとうを開け)さ、お注ぎします。 |
山下 |
や、これはどうも恐れ入ります。 |
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藤本 |
水出しのほうじ茶、おいしいですよ。 |
山下 |
へえ~、水出しですかあ‥‥。
しかし、このアラジンの赤いボディは
芝生の緑によく映えますですねえ。 |
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藤本 |
そう、ほんとにかわいいのは
そういうアラジンみたいな
樹脂で包まれた魔法瓶なんですけど、
こういうステンレスのもね、
なかなか便利でして(自分で注ぐ)。 |
山下 |
あ! 藤本さん、お注ぎしますよ。 |
藤本 |
いやいやお気遣いなく、自分でやりますから。 |
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山下 |
すみません手酌で。
‥‥では、いただきます(飲む)。 |
藤本 |
(飲む)‥‥‥‥。 |
山下 |
‥‥‥‥おいしい。 |
藤本 |
水出しのほうじ茶は、すいとうにいいんです。
紅茶のティーバッグとか中国茶とかも
試したんですが濃く出すぎちゃって。
これならそういうこともなくて、
なくなったら水を足せばまた飲めるし。 |
山下 |
すいとうの中に葉っぱが入ってるんですか? |
藤本 |
いや、そのままじゃなくて、ええと‥‥
(リュックを探る)こういうね、
紙のパックに入れて、すいとうにポンと。 |
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山下 |
なるほどお。
これならずいぶん手軽ですね。 |
藤本 |
はい、毎日のことですから。 |
山下 |
‥‥‥‥あの、実はですね藤本さん。 |
藤本 |
なんでしょう? |
山下 |
藤本さんのお茶のように、
おいしくはないのですが‥‥。
ピクニックスタイルということで、
僕はお弁当をつくってまいりました。 |
藤本 |
ほんまですか? |
山下 |
‥‥はい、恥ずかしながら。
出しますね(バッグから出す)。
せっかくですので、すいとうも並べましょう。 |
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藤本 |
絵になりますねえ。 |
山下 |
果たして中身は絵になりますかどうか‥‥。
開けます(包みをほどく)。 |
藤本 |
なんや、うれしいなあ(笑)。 |
山下 |
‥‥い、いかがでしょうか。 |
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藤本 |
おおー、やったー! |
山下 |
おにぎり、たまごやき、
カニとタコのウインナー。
デザートは、うさぎりんごでございます。 |
藤本 |
すごいですね。 |
山下 |
武骨な指で一生懸命こしらえました。 |
藤本 |
遠慮なしに、いただきます。 |
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藤本 |
うまーい! うまいですよ山下さん。 |
山下 |
あ、ありがとうございます。 |
藤本 |
‥‥またその、おにぎりと、すいとうと、
緑の芝っていうのが絵になりますねえ。 |
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僕らはしばしのんびり、
たいへんおいしいほうじ茶と、
まあまあのお弁当をいただくのでありました。
公園のどこかで誰かが
サックスの練習をする音が聞こえます。
鳥の鳴き声も聞こえます。
世間話やお仕事の話をするうちに、
僕らの時間はどんどん過ぎていきました。 |
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山下 |
‥‥あ、そういえば藤本さん、
すいとうを広めようと思ったきっかけのお話
まだうかがっていませんでした。 |
藤本 |
そうでしたね、これは取材でした(笑)。
すっかりくつろいでしまって‥‥。 |
山下 |
続きをお願いします。 |
藤本 |
僕の事務所は、カフェをやってるんですが、
昔そこにね、近所の小学生の子が
学校帰りに寄り道しにきてたんですよ。 |
山下 |
あらら(笑)、何人くらいで? |
藤本 |
5、6人でしたかねえ、
つるんで入ってきよるんです。
その子たちがみんな肩からすいとうさげてて、
席に座ってね、麦茶を飲みだすんですよ。 |
山下 |
カフェなのに注文もせずに(笑)。 |
藤本 |
このやろーって思うんですけどね(笑)、
でも、その光景がかわいいんですよ。
「おっちゃん飲む?」とか言われるから
飲んでみたら、キンキンに冷えてて
これがまたうまいんですよ、夏だったし。
なんかいろいろ思い出して‥‥。
ああ、子どもんときって
とにかく冷たいの飲みたかったよなあとか、
部活のあとウオータークーラーに向かって
めっちゃ走ってたよなあとか‥‥。 |
山下 |
そうですか‥‥。 |
藤本 |
子どもたちの様子をみてて、
ああ、ええなあと思ったんです。
これ、おとなにも全然ありやん、と。
で、まず自分も使ってみようと思って、
とにかく1本買ってみました。 |
山下 |
それがこのステンレスのやつですね。 |
藤本 |
そう、そしたらほんまに便利で、
自分の家でお茶わかすのも楽しいし、
持って歩けば誰かに飲ますこともできるし。
もっとたくさんの人が
マイボトルを持つ世の中になったらいいのに
と真剣に思うようになったんです。 |
山下 |
なるほどお‥‥。
で、そうして出されたのが
この「すいとう帖」なわけですね。 |
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藤本 |
3色の装丁でつくってみました。 |
山下 |
(中を拝見)いろんな方の、
すいとうのある暮らしが紹介されていて‥‥。
首からさげられるんですね、こんなふうに。 |
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藤本 |
どうぞそれ、お持ちください。 |
山下 |
え? いただけるんですか? |
藤本 |
ええ、もう山下さんは
すいとう委員会のメンバーですので。 |
山下 |
わかりました、委員長。
では、このままさげて帰ります(笑)。 |
藤本 |
ありがとうございます(笑)。
それとですね、
すいとうへの思いがさらにきっかけとなって、
7月にはムックを刊行する予定なんですよ。 |
山下 |
はい、それも噂にきいております。 |
藤本 |
(リュックから出す)これが、
表紙のゲラなんですけどね‥‥。 |
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山下 |
わあ、すいとうだあ。 |
藤本 |
「Re:S(りす)」っていう本なんです。
すいとうの便利さを発見したときみたいに
スタンダードな物の良さを見つめ直そう
と、そんなテーマでつくっています。 |
山下 |
いいですねえ、出版たのしみにしています。 |
それからまた、僕らは世間話に。
犬の散歩が5組ほど通りすぎました。
ヘリコプターが頭上を2度通過しました。
時間は流れます。 |
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山下 |
‥‥‥‥藤本さん。 |
藤本 |
なんですか? |
山下 |
いま気づいたんですが、ここの芝生の緑、
これほとんど、クローバーですね。 |
藤本 |
ほんとだ、シロツメクサや。 |
山下 |
すいとうとシロツメクサ(すいとうを置く)、
何度も言いますが、絵になりますねー。 |
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藤本 |
ペットボトルも便利ですけど、
さすがにこうはいきませんからねえ。 |
山下 |
草原が似合うといえば藤本さん、
ほら、これも。 |
藤本 |
あ(笑)、そうですね似合います。 |
山下 |
じゃ、これも一緒に撮りまーす。 |
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山下 |
ほらほら(画像を見せる)。 |
藤本 |
あ、これうさぎや、ほんまや! |
山下 |
ありがとうございます(笑)。
シロツメクサといえば(うさぎを食べながら)、
四つ葉のクローバー、ないですかねえ。 |
藤本 |
探せばあるんじゃないでしょうか。 |
山下 |
ですよね、こんなに生えてるんですから‥‥。 |
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広い公園にしゃがみこむ、男ふたり。
しばらく無言で「幸せ」を探しました。
やがて、藤本さんが
お仕事に向かわなければならない時刻に。
僕らはレジャーシートをたたみ、
露に湿ったクローバーの広場をてくてくと
JR原宿駅へ向かって歩くのでありました。
「四つ葉のクローバーは
簡単にみつからないこそいいのだ」
そんな会話をぽつぽつ交わしながら。 |
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