カワイイもの好きな人々。
(ただし、おじさんの部)

大阪市中央区淡路町。
とある平日のランチタイム。
スーツ姿の奥田亮さん(48)は、
ノスタルジックなカフェバーへ僕を案内すると、
長さ約50センチの物体をカバンから取り出し
テーブルの上に、ことりと乗せるのでありました。


第60回
ひょうたんはカワイイ


山下
‥‥‥すごい。
これ、ひょうたんでできてるんですよね。
奥田
はい。
カオレレと呼んでいます。
山下
カオレレ。
奥田
顔があるウクレレなので、カオレレ。
山下
ご自分が栽培したひょうたんを使って
作られたんですよね。
奥田
ええ。
山下
‥‥確信が深まりました。
やっぱりひょうたんは、かわいいです。

印刷会社にお勤めの奥田さんと知りあったのは、
2年前の初夏のころでした。

そのちょっと前のことです。
僕のなかで、ひとつの目覚めがありました。
「ひょうたんを育ててみたい」
唐突に、そんなことを思いついたのです。
「もしかしたらすごくかわいいかも」
衝動的に思い込んだ僕は、
気がつけば、苗を購入していました‥‥。
しかし、勢いで買ったはいいものの、
どうやって育てたらいいのか
まったくわかりません。
園芸経験ゼロの僕は、途方に暮れておりました。

そんなとき、折よく知人に紹介されたのが
大阪のひょうたんマスター
・奥田亮さんだったのです。
メールなどのやりとりで奥田さんは、
ひょうたん栽培の基礎を教えてくださいました。
そしてその年の秋、
奥田さんの的確なアドバイスのおかげで、
僕は自分のひょうたんを
収穫することができました。
これです。

手塩にかけたひょうたんの、愛らしさよ!
おじさんくさい趣味かもしれないけれど‥‥
もうそんなことは気にしません!
理解してくれる人は周囲に少ないけれど‥‥
孤独だってかまいはしません!
とにかく、ひょうたんはカワイイ!!
僕は強く、確信いたしました。

そんな強い確信を胸に、
奥田さんへお礼を告げるべく
僕はこうして大阪を訪れております次第。
しかも、
奥田さんは栽培するだけにとどまらず、
なんですか、ひょうたんでカワイイ楽器を
つくっているというではありませんか。
お話、うかがってまいりましょう。


山下
こちらのお店、
あちこちにひょうたんがありますね。
そこの大きなのとか、すごく立派です。
奥田
それは僕が育てたやつです。
山下
あ、そうなんですか。
お店のかたも、ひょうたんがお好きで?
奥田
そうですね。
ひょうたん仲間も集まる場所ですし。
山下
お仲間がいるんですね。
奥田
ええ、僕が流行らせました(笑)。
30〜40代の男性8人で、
「ひょうたんクラブ」みたいなことを
やってまして。
山下
いいですねえ‥‥。
奥田
メンバーが8人なのは、
8の数字がひょうたんの形だからです。
山下
あ、そうか! ははは、なるほどー。
奥田
ここで品評会をやったんですよ。
まあ、見せびらかしの会なんですけど、
なかなか盛り上がりました。
‥‥そうだ、品評会の画像があります。
ちいさいんですけどね、こんな‥‥。
山下
あ〜、携帯の待ち受けに。
奥田
メーリングリストをつかって、
ひょうたんの悩みを
みんなで相談したりもしています。
山下
うらやましいなあ‥‥そんな仲間がいて。
奥田
みんなハマってます(笑)。
山下
‥‥しかしそれにしても、
ひょうたんの魅力っていうのは、
これ、いったいなんなのでしょうね?
奥田
ねえ、なんなんでしょう。
山下
奥田さんは、いつごろから
ひょうたんをはじめたんですか?
奥田
ええと、あれはいつごろやろ‥‥?
たしか、1992年くらいですかね。
山下
ということは、15年のベテランですか。
奥田
そんなんなりますね。
‥‥最初はなんかこう、
食べもんじゃないもんを育てるのが
すごい不思議な気がしましたねえ。
「道具を栽培する」っていうのが面白くて。
山下
なるほど、
大昔はうつわに使われてましたからね。
道具をつくるという感覚で、
奥田さんはこれを楽器にしたわけですね。
奥田
まあ、ひょうたんで楽器をつくることは
昔からされてることですし、
自分にもできるかなあ、と。
山下
‥‥ちょっと、
カオレレの音色を聞かせてもらえますか。
奥田
あ、はい。
♪ポロロローン
山下
‥‥ほお。
これはまた、予想以上にいい音です。
奥田
そうですか。
山下
考えてみたら、ひょうたんって
スピーカーになってるくらいですから
よく響く材質なんでしょうね。
奥田
ええ、つくってみたら
なかなか深みのある音になりました。
山下
‥‥これ、ぜんぶの部品がひょうたんで
できてるわけじゃないみたいですね。
奥田
ひょうたんをつかってるのは(裏返す)、
この胴の部分です。
山下
はいはい、
大きなひょうたんをふたつに割って。
奥田
こっちの糸巻きのところとか、
奥田
ネックの部分はふつうの木材です。
山下
フレットには
テグスが巻いてあるだけなんですね。
奥田
はい、だからよく音がズレます(笑)。
で、
この天板はバルサ材でつくりました。
山下
この顔(笑)、かわいいなあ。
奥田
ブリッジの位置が大切なんですよ。
山下
ブリッジというと、口の部分ですか?
奥田
ええ。
あ、そうだ、これもちいさいですが
画像があります。
‥‥これだと、トボケすぎでしょ?
山下
ははははは。
奥田
これも、なんかちがう。
山下
はい、ちがいますね(笑)。
で、結局口の位置はこうなったと。
奥田
音質よりもかわいさを重視して
この位置に決めました。
山下
すばらしいと思います。
‥‥これでコンサートなんかは
やらないんですか?
奥田
やりますよ。
ひょうたんバンドとか、
ひょうたんオーケストラをつくったりして。
山下
オーケストラ!
奥田
30人くらいいましたかね、
昔ですけど2、3回コンサートやりました。
オーケストラの練習は、
まずひょうたんの栽培からはじまるんです。
山下
栽培から(笑)。
気の長い練習ですね。
奥田
最初は栽培の指導からはじまって、
ひょうたんを収穫できたら
今度はみんなで楽器に加工して、
それからやっと演奏の練習です。
山下
栽培からはじまるオーケストラ‥‥
そっれはたのしいでしょうねー。
奥田
盛り上がります。
山下
オーケストラということは、
ほかにも楽器の種類が?
奥田
ええ。もちろんウクレレだけじゃなくて
いろんな楽器をつくります。
簡単な楽器をつくるワークショップは
今もちょくちょく開いてるんですよ。
山下
簡単な楽器といいますと?
奥田
ひょうたん笛ですね。
ここにありますよ、ほら。
山下
わ、かわいい‥‥。
これ、笛なんですか。
奥田
ええ、
このお店のひとがつくった笛です。
これも。
山下
へえええええ。
奥田
この大きな穴に息をふきこんで、
オカリナみたいに、こう‥‥。
ポーポー♪
山下
ほんとだあ。
奥田
ポポポ〜ポポ ポポポポポポ〜♪
山下
あ、チャルメラの音階。
奥田
‥‥ま、こんな具合です。
山下
これ‥‥簡単にできるんですか。
奥田
できますよ、
穴をあけるだけですから。
山下
‥‥じつは奥田さん、
僕、自分のひょうたんを持ってきたんです。
奥田
あ、僕も持ってきました。
山下
じゃ、じゃあ、もしかして、
いまここで一緒に笛をつくることが‥‥。
奥田
できますね。
やりましょう、ぜひやりましょう!

こうしてまずは、
東西のひょうたんがご対面。

それぞれ1個ずつ、笛にすることにしました。
カッターを用い、奥田さんのご指導で
慎重に慎重に穴をあけていきます。

集中して穴をあけながら山下は、
「大切なひょうたんに穴をあけるのって、
 初めてピアスをあけたときの気持ちに
 ちょっと似ていますよね」
などと何故かそんなことを口走りました。
ピアスなど、あけたこともないくせに。

やがて、完成。
左が山下作のひょうたん笛です。

下の大きな穴に息を吹き込んで鳴らしつつ
上の小さな穴を指でふさいだりして
音階をつくっていくのです、
と奥田さんがおっしゃいます。
やってみましょう。


山下
ふおー! ふおー!
奥田
‥‥‥‥‥がんばって。
山下
ふおー! ふおー!
奥田
‥‥‥‥‥‥‥。
山下
ふおー! ふおー! ふおおおー!
ポー♪
‥‥な、鳴った!!
いま、ね!?
奥田
はい、鳴りました。
山下
やあ、ははは、
うれしいものですねえ‥‥。
奥田
よかったです(笑)。
山下
‥‥奥田さん、
お時間は大丈夫ですか?
これからお仕事に戻られるんですよね。
奥田
はい、ぼちぼち。
でも、まだちょっと平気ですよ。
山下
そうですか‥‥
じゃあ、どうでしょう、最後に一曲、
カオレレで何かお願いできませんか?
奥田
一曲ですか‥‥わかりました。
ポロロン ポロロン ポローン‥‥
奥田
ポロンポポポポンポ ポンポポポポン
ポポンポポポポポ ポロロンポ〜ン♪
山下
ん? これは聞いたことある曲ですね。
奥田
ポ〜ンポポポポ〜ン
ポロポポポ〜ン ポポポポポンポンポ〜ン♪
山下
ああ、わかった!
「僕らはみんな生きている」ですね。
奥田
ポロ〜ンポンポン ポポ〜ポポ〜
ポポポポロンポロンポロ〜ン♪
山下
ふおー! ‥‥あれ?
奥田
ポロロポ〜ンポ ポロロポ〜ンポ
ポポポポポロ〜ンポロ〜ン♪
山下
ふおー! ‥‥鳴らない。
奥田
ポロロポンポ ポロロポポンポ♪
山下
ふおおおー!
奥田
ポポポポポロ〜ンポロ〜ンポロ〜ン
ジャガジャガジャ〜ン!(演奏終了)
山下
ポー♪
‥‥‥‥な、鳴った。
奥田
はい、鳴りました。
山下
奥田さん、
きょうはいろいろとほんとうに、
ありがとうございました。
奥田
いえいえこちらこそ、たのしかったです。
山下
カオレレくんも、ありがとうね!


「あんた、もっと笛を練習せなあかんよ」


かわいさを、西の地で共感してまいりました。

というわけでみなさま、
みなさまも、ひょうたん、いかがですか?
ちょうどいま、苗がでまわっている季節です。
園芸センターなどをのぞいてみれば
ポットに入ったかわいい苗が、
あなたを待っているはず。
千成瓢箪(せんなりびょうたん)という
ちいさなひょうたんの種類なら、
ベランダで十分栽培できますよ。
秋のたわわな収穫を目指して、
僕もこれからことしの準備に入ります!

最後になりましたが取材の場所を提供してくださった
「フレイムハウス」さん、ありがとうございました。
懐かしくて、とても落ちついて、
そしてハヤシライスがおいしかったです!
HPはこちら↓からどうぞ。



2007-04-25-WED

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