第4回
渡邉良重さん、について。

──
最後に、キギの渡邉良重さんについて、
少し、お聞かせください。

ほぼ日では、良重さんとつくった洋服を
「CACUMA(カクマ)」
というブランドで展開しているんです。
永井
はい。
──
今回、良重さんが、
「AUDREY」というスイーツ専門店の
パッケージのデザインで、
有名な「亀倉雄策賞」を受賞しました。
そこで、
選考委員長である永井さんからご覧になって、
渡邉良重さんって、
どのようなデザイナーだと思われるか、
お聞かせいただけますか。
永井
渡邉さんのつくるものについては、
広告から雑貨類から本から、
さまざまな作品がありますけれど、
ぼくは、わりと、
渡邉さんの描くイラストレーションが
印象に残っているんです。
ですので、一見、
イラストレーター的なんですけれども、
やはり「デザイナー」なんですね。
──
と、言いますと。
永井
まず、あの宮田識さん率いるドラフトで、
長い間、勉強されています。

よく覚えているのはラコステの広告です。
──
あ、ドラフトのホームページで見ました。
デザイナーは、良重さんだったんですか。
永井
クリエイティブ・ディレクターである
宮田さんの意図で、
商品そのものをきちんと見せながらも、
広告表現として、
非常に質の高いものになっていますね。

渡邉さんに任されていた部分も
多かったと思いますが、
あの広告を見ると、
デザインのあり方というものを、
宮田さんのもとで、
非常によく学ばれていたなと思います。
──
なるほど。
永井
現在はドラフトを卒業して、
植原亮輔さんとキギをやっていますが、
一見、
植原さんがディレクションして、
渡邉さんがイラストレーションを描く、
そういう分担かなと思うけれども、
そうじゃなくて、
2人でディスカッションを重ねながら、
デザインを練り上げて、
広告の作品をつくり上げておられます。

イラストでなく写真を用いた
すばらしいポスターもつくってますし、
アートディレクター、
デザイナーとしての力量は、
非常にたしかなものだと感じられます。
──
ワコールの「une nana cool」の広告とか、
とっても素敵ですよね。
永井
思うに、渡邉さんというデザイナーは、
「自然」というものに、
幼いころから、ずっと、
親しんでこられているのではないかと、
そういう気がします。
──
先ほども野性的と、良重さんを評して。
永井
デザインというのは、やはり、
「人間の五感」を研ぎ澄ましていって、
刺激に対して感じ、思ったことを、
目的や用途に合わせて取捨選択し、
自分なりに組み合わせて、
立ち上げていく行為であると思います。
──
はい。
永井
よいデザインができるときというのは
視覚・触覚・嗅覚・味覚・聴覚の五感が
ひとつになって
ある「かたち」に収まるものだからです。

そのときに、五感を養ってくれるのは、
やはり「自然」でしかありません。
──
ええ。
永井
なぜなら「人間の五感」は、
もともと、自然から生まれたものだから。
──
なるほど。
永井
そもそも地球という惑星が、
太陽との間の非常に奇跡的な距離関係で、
成り立っているものですね。

ほんのちょっと位置がずれてしまっても、
氷の世界になったり、
あるいは逆に火の玉になっていたところ、
ちょうどいい塩梅で、
海が出来、植物や微生物が動き出し、
昆虫、魚、動物‥‥
その延長線上に人間も生まれました。
──
はい。
永井
だから人間は、自然と対立する存在でなく、
草花、動物、風や光‥‥などと、
たくさんの共通点を持っているわけです。
──
対峙するのでなく、その一部であると。
永井
渡邉さんは自然のなかで育ったそうですが、
名もなき花なんかにしても、
まったく気負いなく描くことができるのは、
彼女が、むりなく、たんたんと、
自然と一体化できる人だからだと思います。
──
たしか、お母さんが
子どものころに愛読していた植物図鑑から
ブラウスの花柄の着想を得たり、
そもそも
「CACUMA」というブランド名が
おじいさんのお名前だったり、
良重さんって、人間や自然、人生みたいな
アナログなものから、
インスピレーションを得ている気がします。
永井
そうですよね、ええ。
──
以前、キギの良重さん・植原さんと、
おふたりの師匠である宮田識さんの3人で、
座談会をやっていただいたんですが、
そのときも、
3人の関係性が、すごく素敵だったんです。
永井
なんかね。仲いいですよね。
──
何でしょう、どこか、
おとうさんと、お姉さんと弟、みたいな。

自然の話とは少しずれますけど、
ああいう間柄から生み出されるデザインが
素敵なものになるのは、
ある意味で当然だよなあって思いました。
永井
ぼくたち戦中派の人間には、
きれいなものに対する飢餓感があって、
デザインにたいして、
それを、
希求してきたところがあるんです。

彼女の場合は、その自然児のような感性を、
「デザイン」という、
時代の先端にある表現に混ぜていますよね。
そのことのおもしろさ、独自性を感じます。
──
独自性という意味では、
山口大学教育学部のご卒業という経歴も、
トップでやってるデザイナーとしては、
きっと、ものすごくめずらしいですよね。
永井
そうですね、そう思います。

見ていると、本当にデザインがお好きで、
「そこまでしなくてもいいだろう」
というぐらいに、
どばーっとのめり込んでいくんだけど、
ぜんぜん辛そうじゃなく、
まったく自然に、
実に楽しそうだなあって思えるんですよ。
──
はい、それはもう。
永井
そういう雰囲気が素直に作品ににじみ出て、
こちらに伝わってくるから、
ぼくたちも、
渡邉さんの作品を見ていると楽しくなって、
幸せな感覚を味わえるんです。
──
ええ。
永井
渡邉さんの作品からは、
優しさで包んだ幸せを追い求めているような、
そんな感じを受けます。

彼女よりも強烈な個性を持つデザイナーって、
たくさんいるとは思うんですが、
彼女の気負わなさ、
人でも草花でも何でも等価値に見られる態度、
あれは、渡邉さんオリジナルのものですね。
──
はい。
永井
知らないうちに、いつの間にか、
渡邉良重の世界に、引きずり込まれてしまう。

そういう、
不思議な魅力を持った作家だなあと思います。
<おわります>

2017-04-15-SAT

このインタビューは
「CACUMA(カクマ)」のデザイナーである
キギの渡邉良重さんが、
永井さんが選考委員長をつとめる
「亀倉雄策賞」を受賞したことをきっかけに
実現いたしました。