欽ちゃん!2006 

萩本欽一さんの、おもしろ魂。
最新の記事 2006/04/27
02 勝ちと負け

萩本 野球チームの監督をやってはいるけど……
勝敗の責任は、持ちたくないよね。

監督の責任が
ちいさければちいさいほど、
いいチームなんじゃないの?
糸井 萩本さんの場合は、
そこで、
別の監督にならないと
いけないんでしょうね。

ほんとの意味での
ゼネラル・マネージャーの役目を
「監督」と呼んでいる、というか。
萩本 そう。
プロデューサーだと思うのね。
糸井 「そんな野球をやっていたら
 お客さん、はいらないじゃない!」
とか、平気で言えるような、ね。
萩本 そうそう。
糸井 本来の「監督」とちがう役割。
でも、それは必要ですもんね。
萩本 野球のことを、
お客さんがどう思っているか、とかね。
だから、野球の専門のことについては、
別の人が必要なような気がしてきたなぁ。
糸井 今年の原さん(巨人)のところには、
近藤昭仁さん(ヘッドコーチ)とか、
尾花高夫さん(投手コーチ)とか、
いれていますよね……
前とおなじメンバーのフリして、
ちゃんと、変えているからなぁ。
原さんが、もっと乱暴ができるように、
「セオリーは、こうですけどね」
と言う役割の人を、要所に、いれていて。
萩本 なるほど。
糸井 今年のジャイアンツの盗塁の多さは、
監督とヘッドコーチを兼ねている人には
できない、大胆な決断ですから。
萩本 野球を勝つということと、
野球をおもしろくするということは、
むしろ、相反するところがあるみたい。
それ、1年やってて、わかったんだ。

これを両方やるのは、
不可能に近いよなぁ。

勝つための監督と、
見せるのがうまい監督と、
何人も、監督がいたほうが、いいかもしれない。
糸井 昔、藤田監督、王助監督、
牧野ヘッドコーチの3人で
「トロイカ体制」
といわれていたときみたいな……
(81年、この布陣で巨人は日本一になった)
あれは、今、
萩本さんが言われた話に
近いことを、していたのかもしれませんね。
萩本 あぁ……
それぞれ、肩書はあっても、
実際は、ヘッドコーチも
監督に近い役割をになう、という。
そうじゃないと、変化しないし、
相手にだって、バレちゃうんだから。
糸井 乱暴に運転できる人がいないと、
強くならないんですよね。
萩本 それを
何役もやるのは、なかなか、ねぇ?

サインにしても、
8番のヤツに
どんなサインを出してほしいかきいたら、
「打つのに精一杯で、
 サイン、見ているヒマがなくて」
って、言うんだよ。

野球人の本音をきいたような気がして。

打つのに精一杯で、
サインを見ているヒマがないってやつに、
サインを出したら、
気持ちのわるい野球になるだろうなぁ。
糸井 当てられるに
決まっている選手がいて、はじめて、
ヒットエンドランとかいう作戦が
実行できるわけですからね。

技術が高くなればなるほど、
できる戦略が、圧倒的に増えるという。
萩本 それから、
野球の選手たちの
ともだちのつくりかたが、
「あれ?」と思った。

選手に、きいたの。
「どいつと、ともだち?」
「コイツ」
外野が、外野どうしで、なかよくなってる。

それじゃ、チームには、なりにくいもんね。
仕事として、ともだちって、つくらないの?

外野からショートに投げる。
「あいつの顔を見ると、安心するんだよなぁ」
これ、ほしい。

だから、外野なら、
なんとか、あのショートと、
ともだちになろうという気にならないと……
と思うんです。
糸井 あぁー。
萩本 真剣に、仕事として
強くなろうとしていないんじゃないか。

ともだちのつくりかたは、
まだ、「遊び」なんじゃないかな、と思った。

「好きなやつと、つきあっている」

ぼくは、その関係は、イヤだなぁ。
できれば、
「あいつ不愉快だけど、
 なんとしても
 あのショートとなかよくなりたい」
……つまり、野球人として
いっしょにメシを食うともだちは、
そうあるべきじゃないか、と思うんです。
糸井 漫才の相方みたいですね。
萩本 そうです。
「あいつキライだから、コンビ組まない」
じゃなくて、ね。
そうじゃないと、チームにならない。

「好きじゃなかったんだけど、
 あいつにタマを返すことが多いもんだから、
 あいつと、よくメシを食いにいくんだよな」

そういう話を、ききたかったよね。
糸井 2年目の今年は、どんなことを考えていますか?
萩本 勝たないと……いったん解散ですね。

去年は、もうすこしで優勝、
というところまでいったんだから、
(都市対抗野球では準決勝まで、
 全日本クラブ野球選手権では
 準々決勝まですすんでいた)
そこにいかなければ……
やっぱり、「内閣総辞職」にしないと。

負けてもつづいていられる。
「来年、がんばります」
それは、ないだろうと思うんです。
「みなさん、
 どうもありがとうございました。
 ゴールデンゴールズ、
 来年は、ないです」
それぐらい、覚悟していないとね。
糸井 「来年は、"新" ゴールデンゴールズで……」
萩本 そうそう。
番組だって、そうじゃない?
元祖とか、新とか、つけるもんね。

一歩でも、
うしろにいったら、やめないと。
2位までいったのに
5位になっちゃったら……ねぇ?

2年目は、
相手に知られることがあるから
たいへんな部分もあるんだけど、
それでも、だめなら、やめないと。

野球やってるんだから、
負けたら、切腹しないと。
糸井 それは……監督を
やったから言えることですねぇ。
監督をやる前は、
そういうことは、
おっしゃっていなかったですから。

マンガみたいなチームが
勝つっていうことは、ないのかなぁ。
萩本 公式戦はそうですね。
それ以外の試合は、ちがうけどね。

公式戦で
「いつか優勝を目指している」
とかいうと、
その「いつか」がいつまでもになって、
応援してるほうは、
つまんないんじゃないかなぁ。
公式戦なら、命がけで、いかないと。
糸井 つまり、萩本さんは
公式戦のフィールドと、
見せるための試合とは、
別のものと、考えているんですね?
萩本 そうです。
糸井 実際にやったから、言えることだよなぁ。
はじまる前に、
勝ち負け以外の価値について
さんざん話したあとに言う言葉だから、
ものすごい、深みが出てきましたよねぇ。
萩本 「勝ってよろこばせる」
ということのおおきさを、知ったという。
やっぱり、「優勝を見せる」というか……。
糸井 お客さんは「奇跡」が見たいんですもんね。
萩本 そうよ。
糸井 それにしても、1年の変化を感じたなぁ。
1年って、長いんだなぁ。すごい。

「いつか優勝」という言葉では、
それじゃ、つまらないということですよね?
それじゃ、物語は、つくれないんですよね。
萩本 そう。
「いつか……」と、そんなつもりで
野球をやってるなら、あこがれられない。
糸井 公式戦は、
相手のルールで戦うものですよね。
それ以外は、
自分たちの考えたおもしろい野球を試すもので。

市場を増やすのは後者で、
力をつけるのは、
前者の公式戦なんでしょうねぇ。
萩本 なしとげるという意味では、
アマチュアでも「気楽に」は、ないですから。
そういう場所に、いたいのよ。
夢って、スピードがないと、つまんなくなる。

出発して、じわじわ、死ぬ前に夢を果たした。
それじゃ、おもしろくない。はやくしないと。

夢なんか、みっつぐらい、
同時に、追いかけなきゃ、だよね。

これは、公式戦の話、だけどね。
公式戦以外の野球は、つづけますよ。
糸井 はい。
だって、公式戦って、
はじめる前には、
萩本さんのアタマのなかには、
あんまり、なかったですから。

「たのしませる野球以外の公式戦」が、
悪女のようにやってきて、萩本さんの目を、
真剣にさせちゃったんでしょうね。

(次回に、つづきます)
 
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