萩本 |
野球やっているのも、
糸井さんとの対談が、
きっかけだもんなぁ。
それまで、野球について
あつく、しゃべったこと、なかったもの。
ここから、はじまっちゃったんだ。 |
糸井 |
最初にお会いしたとき、
9時間ぐらい、しゃべったんですよね。
タフだよなぁ、と、つくづく思います。 |
萩本 |
それは、なんていうのかな……
「タフだから仕事をする」
というじゃなくて、
きっと、仕事をしているうちに、
タフになっていくんだろうなぁ。
だから、
いい仕事、おもしろい仕事は、
人をタフにさせるんだろうね。
なにもしていないときは、
階段、のぼっただけで、筋肉痛がしてた。
でも、野球やりはじめたら、いたくなんないの。
こないだ、ひさびさにやすみがあったときは
じっとしてたら、疲れちゃって……。 |
糸井 |
ぼくは、萩本さんの野球を見ていたら、
「あんなに欽ちゃんをはたらかせないような
プレイを、選手たちは考えないといけない」
と思いました。
打席に入る前に、
ヘリコプターのように
バットをまわしながら
出てくる名物男がいたら、その回、
欽ちゃんがしゃべってなくたって、
おもしろいんですから。 |
萩本 |
点をとらないときは、
俺が、余計に、がんばんないといけないな、
と思うから。 |
糸井 |
いくらタフでも、あんなにやっていたら、
絶対に倒れるぞ、と思った。
実際に、試合を見たら、ほんとにすごくて……
記者会見から、お客さんの相手から、
試合中のマイクパフォーマンスから、
もう、ぜんぶ、やっているんですもん。
まぁ、できちゃうから
やっているんでしょうけど。 |
萩本 |
ソフトバンクさんの二軍との試合が終わって
言われたのが、
「こんなに売店が売れなかった試合はないです」
つまり、トイレにも売店にも、誰もいかない。
あ、ごめんなさい、しゃべりすぎたと思ったけど。 |
糸井 |
でも、そのときは、売り子は売り子で、
「待ち」の商売をしてたらダメですよね。 |
萩本 |
そうだね。
出ていかないと。
焼きそば、焼きながら出てくる!とか。
鉄板を吊って、焼いて、においをかがせながら。
ビールが吊るせるんだから、
炒めながら出てきたって、いいもんね。 |
糸井 |
ぼくは、
あのソフトバンク戦を見ていて、
「死んじゃうだろう、年寄りなのに!」と……。 |
萩本 |
たいへんですね、と言われないんですよね。
終わってから、
サインを二時間ぐらいしていたら、
「二時間もサインされると、
従業員が帰れないから困ってる」と。
「ほんとにご苦労さんですね」と言う人が
ひとりもいないというのは、これは……
一生懸命にふんばっていることが、
ガタガタ、崩れそうになってくるの。
疲れたときって、
誰かが、言葉をかけてくれて、
ホッとすることって、あるじゃない? |
糸井 |
それはもう、極東の島国にやってきた
宣教師さんのような苦労、なのでしょうね。
芸能と、野球と、言葉がちがっていたという。 |
萩本 |
まぁ、でも、
たいへんだから、おもしろいんだけどね。 |
糸井 |
無名の劇団を立ちあげるようなことだし、
それで、お客さんは、
ちゃんと入っちゃうんですから。
みんな、欽ちゃんが
野球の素人だってこと、忘れてるんだもん。
それで、ひとりに、すっかりおまかせの現場で。
プロデューサーとディレクターがいないまま、
座長だけが、飛びまわっていると言いますか。 |
萩本 |
これまでも、
すべてアドリブでやってきたんだけど、
相手もアドリブという経験はないんだよね。
だから、相手のアドリブは、ぜんぶ、
自分にカブってくるというところは、ある。 |
糸井 |
きっと、
選手たちへの「お疲れさまね!」っていう挨拶も、
萩本さんのほうから、言ってるんだろうなぁとか、
想像ができるんですよ。 |
萩本 |
野球って、おはようございますとか、
お疲れさまとか、ぜんぜんないのね。
三か月目に、「おはようございます」と言われて
「おぉ、おまえはじめてだな、あいさつしたの」
って言ったという。
選手に、会話がない。
だから、インタビューしても、
なかなかおもしろくないのかもなぁと思った。
ふだんの会話から、やっていかないと。
ただ、やってみて、
わかったこと、いいこともずいぶんあった。
野球って、技術じゃなくて
気分で打つんだってことがまずわかったね。
つまり、ぼくは、打たせることはできるんです。
かわりに、守りのときは、ベンチにいないの。
だって……守りを見ていると、
「点を、とられるかも」というだけでしょう。
守っていて、点をとることって、ないんだよ。
点をとられるって、つまんないじゃない。
つまんないものを、
どうして見ているんだろうなと思ったの。 |
糸井 |
(笑) |
萩本 |
特に、点とられそうになったら、
もう、外にいくことにしているんです。
ぜんぜん、外にいっちゃう。
外いって、ひなたぼっこしてるよ。
そうすると、
お客さんのおばちゃんが飛んできて、
「欽ちゃん、ホームラン打たれたよ!」
「だから言ったろ!
俺、見てなくてよかったぁ!」
見ていないんだから、
ホームランの記憶は、ないんです。
点をとられたの、見たことないの。
そうすると、選手をキライにならなくて済むね。
エラーも、見なければいいんだ。 |
糸井 |
野球というゲームの
欠点であり個性でもありますよね、
「守りが、つまらない」というのは(笑)。 |
萩本 |
おもしろくないねぇ……。
守りを、毎日、記憶していると、
選手を、どんどん、キライになっちゃうもん。
どうしたって、腹、立ってきちゃうもんねぇ。
だからこれは、「ぜんぜん見ない」と決めた。
だってね、
失敗したとき、
お客さんがアーとかワーとか、
一喜一憂するのは、当たり前なんだけど、
演じる側、選手の側が、おんなじように
一喜一憂してるっていうのは、
ぼくには、わかんないんだよ。 |
糸井 |
(笑)
野球、選手も、見ちゃっている、と。 |
萩本 |
そう。
舞台でボケたヤツが
お客さんと一緒に笑ってるようなもん。
お客さんの反応を見ながら、こちらは、
「しめた! よし、次の手は……」
と思うわけじゃない。
だから、エラーしたときに、
ベンチが、お客さんとおなじように
ワーッとなったり、
怒ったりするのは、ちがうんだよね。
「ラッキーなんだから」
ぼくは、まわりに、言うの。
「あんなところで
エラーするなんて、
おまえ、相当、すごいヤツだねぇ!
あんなところで、運を使わないで、
次の打席で、運をまわしたんだろう?
それは、最高のエラーだよ。
次、打てば、あんなものは、
あとで見たら最高のエラーになるんだから。
この運、大事に活かせよ。
次は、ヒットだよ。
おまえ、90%、ヒットだよ。
どこに転がしたっていいから、いってきな!」
そしたら、ヒット打つもんなぁ。
それが、演じる側ですよ。
お客さんと一緒になって
よろこんだりくやしがったりしていたら、
それは、ギャラは、タダになっちゃうよ。
お金、もらうだけのはたらきをしてないから。
(次回に、つづきます) |