欽ちゃん!2006 

萩本欽一さんの、おもしろ魂。
最新の記事 2006/05/09
04 演者と客席

萩本 野球やっているのも、
糸井さんとの対談が、
きっかけだもんなぁ。
それまで、野球について
あつく、しゃべったこと、なかったもの。
ここから、はじまっちゃったんだ。
糸井 最初にお会いしたとき、
9時間ぐらい、しゃべったんですよね。
タフだよなぁ、と、つくづく思います。
萩本 それは、なんていうのかな……

「タフだから仕事をする」
というじゃなくて、
きっと、仕事をしているうちに、
タフになっていくんだろうなぁ。

だから、
いい仕事、おもしろい仕事は、
人をタフにさせるんだろうね。

なにもしていないときは、
階段、のぼっただけで、筋肉痛がしてた。
でも、野球やりはじめたら、いたくなんないの。

こないだ、ひさびさにやすみがあったときは
じっとしてたら、疲れちゃって……。
糸井 ぼくは、萩本さんの野球を見ていたら、
「あんなに欽ちゃんをはたらかせないような
 プレイを、選手たちは考えないといけない」
と思いました。

打席に入る前に、
ヘリコプターのように
バットをまわしながら
出てくる名物男がいたら、その回、
欽ちゃんがしゃべってなくたって、
おもしろいんですから。
萩本 点をとらないときは、
俺が、余計に、がんばんないといけないな、
と思うから。
糸井 いくらタフでも、あんなにやっていたら、
絶対に倒れるぞ、と思った。
実際に、試合を見たら、ほんとにすごくて……
記者会見から、お客さんの相手から、
試合中のマイクパフォーマンスから、
もう、ぜんぶ、やっているんですもん。

まぁ、できちゃうから
やっているんでしょうけど。
萩本 ソフトバンクさんの二軍との試合が終わって
言われたのが、
「こんなに売店が売れなかった試合はないです」
つまり、トイレにも売店にも、誰もいかない。
あ、ごめんなさい、しゃべりすぎたと思ったけど。
糸井 でも、そのときは、売り子は売り子で、
「待ち」の商売をしてたらダメですよね。
萩本 そうだね。
出ていかないと。
焼きそば、焼きながら出てくる!とか。
鉄板を吊って、焼いて、においをかがせながら。
ビールが吊るせるんだから、
炒めながら出てきたって、いいもんね。
糸井 ぼくは、
あのソフトバンク戦を見ていて、
「死んじゃうだろう、年寄りなのに!」と……。
萩本 たいへんですね、と言われないんですよね。
終わってから、
サインを二時間ぐらいしていたら、
「二時間もサインされると、
 従業員が帰れないから困ってる」と。
「ほんとにご苦労さんですね」と言う人が
ひとりもいないというのは、これは……
一生懸命にふんばっていることが、
ガタガタ、崩れそうになってくるの。

疲れたときって、
誰かが、言葉をかけてくれて、
ホッとすることって、あるじゃない?
糸井 それはもう、極東の島国にやってきた
宣教師さんのような苦労、なのでしょうね。
芸能と、野球と、言葉がちがっていたという。
萩本 まぁ、でも、
たいへんだから、おもしろいんだけどね。
糸井 無名の劇団を立ちあげるようなことだし、
それで、お客さんは、
ちゃんと入っちゃうんですから。

みんな、欽ちゃんが
野球の素人だってこと、忘れてるんだもん。
それで、ひとりに、すっかりおまかせの現場で。
プロデューサーとディレクターがいないまま、
座長だけが、飛びまわっていると言いますか。
萩本 これまでも、
すべてアドリブでやってきたんだけど、
相手もアドリブという経験はないんだよね。
だから、相手のアドリブは、ぜんぶ、
自分にカブってくるというところは、ある。
糸井 きっと、
選手たちへの「お疲れさまね!」っていう挨拶も、
萩本さんのほうから、言ってるんだろうなぁとか、
想像ができるんですよ。
萩本 野球って、おはようございますとか、
お疲れさまとか、ぜんぜんないのね。
三か月目に、「おはようございます」と言われて
「おぉ、おまえはじめてだな、あいさつしたの」
って言ったという。

選手に、会話がない。
だから、インタビューしても、
なかなかおもしろくないのかもなぁと思った。
ふだんの会話から、やっていかないと。

ただ、やってみて、
わかったこと、いいこともずいぶんあった。

野球って、技術じゃなくて
気分で打つんだってことがまずわかったね。

つまり、ぼくは、打たせることはできるんです。
かわりに、守りのときは、ベンチにいないの。
だって……守りを見ていると、
「点を、とられるかも」というだけでしょう。
守っていて、点をとることって、ないんだよ。

点をとられるって、つまんないじゃない。
つまんないものを、
どうして見ているんだろうなと思ったの。
糸井 (笑)
萩本 特に、点とられそうになったら、
もう、外にいくことにしているんです。
ぜんぜん、外にいっちゃう。
外いって、ひなたぼっこしてるよ。

そうすると、
お客さんのおばちゃんが飛んできて、

「欽ちゃん、ホームラン打たれたよ!」

「だから言ったろ!
 俺、見てなくてよかったぁ!」

見ていないんだから、
ホームランの記憶は、ないんです。
点をとられたの、見たことないの。
そうすると、選手をキライにならなくて済むね。
エラーも、見なければいいんだ。
糸井 野球というゲームの
欠点であり個性でもありますよね、
「守りが、つまらない」というのは(笑)。
萩本 おもしろくないねぇ……。

守りを、毎日、記憶していると、
選手を、どんどん、キライになっちゃうもん。
どうしたって、腹、立ってきちゃうもんねぇ。
だからこれは、「ぜんぜん見ない」と決めた。

だってね、
失敗したとき、
お客さんがアーとかワーとか、
一喜一憂するのは、当たり前なんだけど、
演じる側、選手の側が、おんなじように
一喜一憂してるっていうのは、
ぼくには、わかんないんだよ。
糸井 (笑)

野球、選手も、見ちゃっている、と。
萩本 そう。
舞台でボケたヤツが
お客さんと一緒に笑ってるようなもん。
お客さんの反応を見ながら、こちらは、
「しめた! よし、次の手は……」
と思うわけじゃない。

だから、エラーしたときに、
ベンチが、お客さんとおなじように
ワーッとなったり、
怒ったりするのは、ちがうんだよね。

「ラッキーなんだから」

ぼくは、まわりに、言うの。

「あんなところで
 エラーするなんて、
 おまえ、相当、すごいヤツだねぇ!

 あんなところで、運を使わないで、
 次の打席で、運をまわしたんだろう?

 それは、最高のエラーだよ。
 次、打てば、あんなものは、
 あとで見たら最高のエラーになるんだから。

 この運、大事に活かせよ。
 次は、ヒットだよ。
 おまえ、90%、ヒットだよ。
 どこに転がしたっていいから、いってきな!」

そしたら、ヒット打つもんなぁ。

それが、演じる側ですよ。

お客さんと一緒になって
よろこんだりくやしがったりしていたら、
それは、ギャラは、タダになっちゃうよ。
お金、もらうだけのはたらきをしてないから。

(次回に、つづきます)
 
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