萩本 |
野球選手も、なるべくなら
「会話をする仕事」
を、してもらいたいんです。
言葉がおもしろくないのは……よくない。
お客さんって、
活字でおどるでしょう。
たのしみにしているんですよね。
野球選手と、
マイクをとおして会話ができるんだから。 |
糸井 |
萩本さんは、
テレビでも、アドリブの仕事を
何年もやっていたわけでしょう? |
萩本 |
コント55号のときは
テレビでも、8割がたは、アドリブですよ。
アドリブは、
まちがいもあるんです。
100%正しいわけじゃない……
どれだけ、それを切らずに許せるか、です。 |
糸井 |
つまり、
客席とケンカをしていたら
ダメだ、ってことですよね。
なかよくしていないと
アドリブが許されなくなりますから。 |
萩本 |
うん。
お客さんは、味方になってもらわないと。
ぼくが、
野球でプロに負けてない、
と思っているところは、試合が終わっても、
誰ひとり、席を立たないっていうこと。
ここでは、絶対、負けない。
これはうちはプロだと思っていますね。
「アンコール!」
野球が終わったあとに、
そう言ってくれたお客さんのアドリブも、
うれしいですよね。
試合が終わって、
「はい、さようなら」じゃないんですよね。
ぼくは、ここからだって思うし、
お客さんも、なにかを待っているもん。
規則をアドリブがぶちぬくというか、
まちがえて、
終わりなのに終わりにしないことで
「……しめた!」と思うのが、
アドリブに対応できる人ですよね。
だから、
失敗したというときも
「……しめた! ラッキー!」
そう思えないと、まずいんです。
「試合を終了させていただきます」
「やだもん!」
終わりの放送に
「やだもん」ってマイクで言うのは、
お客さんっぽくて、イイよね。
終わりじゃないほうが、
お客さんがもうかるんだから。
それが、サービスだもん。
変わるのをめんどくさがらなければ
できちゃうはずなのに、
なんか、ひとつのカタチができると、
そのままやるほうが、ラクになるという……
つまり、
「ラクしたい」が、つまんないのかもね。 |
糸井 |
そうですよね。
「おなじところで
ギャグを言いますから
かならず笑ってくださいねぇ」
と言われても、つまんないもん。 |
萩本 |
うん。
もっと、アドリブが要るんだね。
世の中、つまんなくなってきたのは、
アドリブがないからで。 |
糸井 |
読めることばかりを
みんなが求めあっていて、
安心したいってことですよね。 |
萩本 |
そう、安心したいみたいなの。
でもね、安心したってつまんない。
つまり、安心すると……
生活がつまんなくなるんじゃないかなぁ。
学校とか、国会とか、
カタチがあるものは、
ついついラクしちゃうけど、
言葉を変えたら、バカウケするよね。
変えれば、お客さんがよろこぶ。
それはわかっているから、
野球でも、どんどん先にいけると思う。
遊び半分ぐらいでやっているのが、
ちょうど、手ごろでね。
監督としては
「筋書どおり!」
という試合が理想だろうけど、
見るほうにとったら、
そんなの、つまんないですよ。
ねえ? |
糸井 |
はい。
「負けても
チームを好きになれた試合」
を、どれだけ見るか、ですよねぇ。 |
萩本 |
はい。
テレビでも、
9時台の番組を痛めつけない、とかね。
ゴールデンの放送のときは、
9時まで、放送時間2時間以内で、
きっちり、おさまらせるの。
どうしても終わらないなら、切らないと。
それに近いことを
やったことがあるんです。
夜、さむくなってきた。
それなのに、
ランナーは、リードしている。
牽制される。
「おい、リードするなよ!」
「ポンポン、投げろ!」
お客さんがさむいんだから、
そういうときは、
はやく終えてあげなくちゃ。
ピッチャーも、
ピヤッ、ピヤッと投げて、
チャカチャカ、終わらして……
モタモタしていたら、場内放送で、
「あと15分しかありません。
はやく、おさめてください」
と言ったっていい。
お客さんによろこんでもらえるかどうかが
大事なんだから。
(次回に、つづきます)
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