萩本 |
4対0で負けてる時、
コーチにきいたことがあるの。
「今日は、どう?」
「こまった。
今日のピッチャーは打てない」
「点、はいんないの?」
「はいんない。
うーん……負けたかな」
「それじゃ、
いよいよ、おまじないだ!
運は、ひっくりかえせるんだから」
運を変える時、
まず、睡眠を考えるんだよね。
「あ、だめだ、ぼくの運は使えない」
その日は、寝てなかった。
だから、
仁平というピッチャーの運を
もらうことにしたんです。
勝てたら、明日、そいつが投げる。
負けたら、投げられないわけ。
「仁平、おまえ、
選手に、全員、声かけろ。
『明日、投げさせてください』
って、声、かけてみろよ」 |
糸井 |
おぉー。 |
萩本 |
「あ、いけねぇ。
オレたちが打たなきゃ、
こいつ、明日、投げられないや」
と、選手たちが思ったら、
ひっくりかえすから。
「○○さーん!
明日、
投げさせてくださーい!」
打席に立つヤツに、声をかけさせる。
次の日に投げたいヤツには、運があるから。
そしたら、
声をかけられたヤツらが、ニコッと笑うわけ。
そしたら5連打だったの。
打つたびに、
「信じられねぇ! うぉー、すげぇ!」
と、まず仁平が、
ブワーッと泣きだしちゃって。
明日、投げたいヤツで、
しかも年齢的にいちばんペーペーのヤツが、
「おねがいします! おねがいします!」
と、真剣なんだもんね。
その姿を見た選手たちも、
「なんか、すごいことが起きてるみたい」
「すごいよ!」
と感動して、5連打。
同点になっちゃったの。
だから、
あぁ、やっぱり、運があれば打てるんだ、
と思った。
野球見てると、
ヒットというのは
5割ぐらい運だっていう気がします。
運を、ちょっと変えたら打つんだもん。 |
糸井 |
萩本さんご本人に
運の持ちあわせがない時、
といういうのがあるんですね。 |
萩本 |
あります。
自分の運っていうのも、
これが、使える時と
使えない時があるんですよね。
寝てない時って、運、ダメなんです。 |
糸井 |
確かに、
寝てないと、あんまり
全体が見えないですよね。 |
萩本 |
ぼーっとしてるからね。
「俺だめだ、寝てねえや、仁平だ」と。 |
糸井 |
そんなベンチにいたら、
おもしろいだろうなぁ。 |
萩本 |
野球は芸能界とおなじで、
運をまとめるっていうのは、
そんなにたいへんじゃないな、
というのが、正直な気持ちなの。
ほんとに
自信のなさそうに打っているヤツが、
「仁平、心配すんな」なんて言うのよ。
ドラマみたいに、
生意気なセリフを言いやがる。
こいつ、いきそうだな……
あ、やっぱりヒットだ!
その変化は、おもしろいよ。 |
糸井 |
自分のためにやっていることは、
ドツボにハマりやすいですよね。
誰かの助けにいくだとかいう時は、
力、出せちゃうんだよなぁ。 |
萩本 |
そうそう。
そういうことが起こるから、
こいつら、みんな、
スターなんだと考えて
運をまとめてやればいいと思うの。
つまり、スターって、
見られてかがやくんです。
社会人野球で
スターが出にくいとしたら、
それはなぜかというと……
だれも見ていないところで
やっているのね。
でも、
かがやきかたのわからないヤツが、
急にプロでかがやけって言ったって、
それは、たいへんですよ。
だから、キラキラッとした人がいない。
昔、
大学とか都市対抗で
見られていた時代には、
見られることでかがやいていたんだもの。 |
糸井 |
そうだよなぁ……。
萩本さんが、監督として、
ふつうに秀才になっちゃったら
つまらないので、その感覚のまま、
いってほしいなと思います。 |
萩本 |
あやしいままがいいよね。
でも、
そういう人がいなければ変わんないよ。
ぼくなんて、
野球やってるの、ギャグですから。
勝ち負けじゃないものを
作ろうとして、はじめたんだもん。
「ベンチに、マイク、いれてくれる?」
そっちのほうが、
大事なんだとか言えるのは、
ヨソモノだからだよね。
(次回に、つづきます)
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