欽ちゃん!2006 

萩本欽一さんの、おもしろ魂。
最新の記事 2006/05/19
12 見たまんま、言わないで

糸井 「ほんとうにすごいことって、
 たのしんでいたらできない」
と、萩本さんがおっしゃるのは、
不本意な状況だから、あがいて
なにかをしようとするんですね。
萩本 じつは、みんなが、言いたいけど、
「ほんとは、つれぇんだよなぁ……」
は、言わないでやりたいと思うわけで。

学校も政治も、
「お客さん」に対しての言葉だと思えば、
発言が、変わってくるんじゃないかなぁ。
糸井 だからと言って、
「お客さまは、神さまです」
という立場でもありませんよね。

お客さんって、なんなんですか?
萩本 そこまですると、
お客さん、イヤがるんですよね。
高くあげすぎるといけないけど、
でも、お客さんは「下」ではないんです。
目線は、まっすぐ、おかないとなぁ……。

人をよろこばせるということについては、
世の中のいろいろなところで
「すこし、ズレているかもしれないな」
と思うんです。

「自分がたのしむ」
というだけではたらいていると、
どこにいったとしても、
給料をたくさんもらわないと
自分がたのしくなくなるというか……。

いい言葉が見つかると、なにかが、
わかるような気がするんですけどね。

「お客さまは、神さまです」でもなく、
「自分がたのしめるように」でもなく、
中間の言葉がないと……だから、
欠けているなと思えるのかもしれなくて。
糸井 さっき、萩本さんが、
「敵がいることを利用して、
 『3球目にバントだ!』とさけぶ」
とおっしゃったけど、つまりそれは、
「敵は、相方だから」ということですよね?
萩本 ええ。
相手は、コンビです。
糸井 欽ちゃんが勝手なことをやって、
二郎さんがアタフタするパターンですよね?
萩本 そう。
相方ってきくと
身近なヤツという気がするけど、ちがうのよ。
糸井 今の時代は、
お客さんも含めて、相方という気がする。
ものすごくきびしい相方、なんですけど。

お客さんは、今はもう「神」ではなくて、
いっしょに物語を作っている人というか……
そのことを、如実に感じているところです。

だから、
ナメてるわけにはいかないし、
おだてるわけにもいかないし。
ものすごい緊張感だけど、
お客さんと、なかよくやりたいですよ。
萩本 ……あ、お客さんとの「ズレ」が
気持ちが悪い時代を、作っているのかもね。

おまわりさんも、
スピード違反でつかまえるのは、
ある意味では、
お客さんをつかまえたことになるんだよね。

だから、
最初の言葉ぐらい、考えたほうがいい。

クルマを、止める。

「はい、スピード出したねー」

当たりまえ。
見たまんま、言うんだもん。

それじゃ、つまらないよね。
「あれ、お会いできました?」
「あ……お時間ありますか?」
言葉を変えていかないと、
世の中は、変わらないもん。

「はい、スピード出したねー」

そう言うから、そんなこたぁ、
言わなくてもわかってるんだ、
と、クチをとんがらがすんだもんな。

つらいときでも、
すこしでもよろこんでもらえるように
言葉を変えていかないと。
言葉が変わらないから、つまらなくなる。
糸井 サービスをするときに、
自分が裁判官になると、ダメですよねぇ。
おまわりさんの場合は、
「あなたは悪だからこらしめて、
 ついでに、カネもとりますよ」
という儀式が必要だから、どうしても、
感じの悪さが、残るのかもしれないなぁ。
萩本 警察手帳に書いておいた、
自分で考えた言葉を見ながら
しゃべってほしいのよね。
「あ、やっちゃいましたね」とか。

そうでなければ、
あたらしい出会いに思えないから。
糸井 「知ってました? スピード」
「いや……ざっと」
「あの、25キロオーバーなんですよ」
「りょうかい」
そういうやりとりがありましたけど、
確かに、そのときは、怒らないで、
なにか同感しながら、払っていましたね。
萩本 いいですねぇ。その受けこたえ。
糸井 ただ、おまわりさんの場合に
善と悪のイヤな感じが残るのは、
仕方がないところがありますよね。

目の前で逃げている泥棒に対して、
「あ、つかまえる私も、仕事ですから」
と伝えるわけにはいかないですし。

スピード違反とか、駐車禁止とかなら、
もしかしたら、言えるかもしれないけど。

ただ、
現場の警察ならともかく
マスコミで報道するときに
善と悪を裁判するところとか、
他人の進退を、
「やめるべきだ」という前提で報道するのは、
「それはないな」と思うんだけど。
萩本 「当たりまえ」というものは、
いつも、えらそうに歩いているんです。

人が
おおぜいからせめられている姿を見て
10人が
「やっぱりアイツはダメだ」と言う。

だけど
あまり根性のない誰かが
「だからアイツを支持する」と思う……。
その、ときどき出てくるおもしろいことが
貴重なものかもしれなくて。

親しい放送作家のなかで
「毎年、甲子園にいっていたけど、
 去年から、いかなくなった。
 最近、みんな、
 プロのマネばかりしているんだ。
 プロとちがう仕草が好きなのに……
 おなじことするなら、プロを見るよ」
と言うヤツがいたの。
おなじことをしているなら、
つまらないですからね。



(次回に、つづきます)
 
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