糸井 |
「ほんとうにすごいことって、
たのしんでいたらできない」
と、萩本さんがおっしゃるのは、
不本意な状況だから、あがいて
なにかをしようとするんですね。 |
萩本 |
じつは、みんなが、言いたいけど、
「ほんとは、つれぇんだよなぁ……」
は、言わないでやりたいと思うわけで。
学校も政治も、
「お客さん」に対しての言葉だと思えば、
発言が、変わってくるんじゃないかなぁ。 |
糸井 |
だからと言って、
「お客さまは、神さまです」
という立場でもありませんよね。
お客さんって、なんなんですか? |
萩本 |
そこまですると、
お客さん、イヤがるんですよね。
高くあげすぎるといけないけど、
でも、お客さんは「下」ではないんです。
目線は、まっすぐ、おかないとなぁ……。
人をよろこばせるということについては、
世の中のいろいろなところで
「すこし、ズレているかもしれないな」
と思うんです。
「自分がたのしむ」
というだけではたらいていると、
どこにいったとしても、
給料をたくさんもらわないと
自分がたのしくなくなるというか……。
いい言葉が見つかると、なにかが、
わかるような気がするんですけどね。
「お客さまは、神さまです」でもなく、
「自分がたのしめるように」でもなく、
中間の言葉がないと……だから、
欠けているなと思えるのかもしれなくて。 |
糸井 |
さっき、萩本さんが、
「敵がいることを利用して、
『3球目にバントだ!』とさけぶ」
とおっしゃったけど、つまりそれは、
「敵は、相方だから」ということですよね? |
萩本 |
ええ。
相手は、コンビです。 |
糸井 |
欽ちゃんが勝手なことをやって、
二郎さんがアタフタするパターンですよね? |
萩本 |
そう。
相方ってきくと
身近なヤツという気がするけど、ちがうのよ。 |
糸井 |
今の時代は、
お客さんも含めて、相方という気がする。
ものすごくきびしい相方、なんですけど。
お客さんは、今はもう「神」ではなくて、
いっしょに物語を作っている人というか……
そのことを、如実に感じているところです。
だから、
ナメてるわけにはいかないし、
おだてるわけにもいかないし。
ものすごい緊張感だけど、
お客さんと、なかよくやりたいですよ。 |
萩本 |
……あ、お客さんとの「ズレ」が
気持ちが悪い時代を、作っているのかもね。
おまわりさんも、
スピード違反でつかまえるのは、
ある意味では、
お客さんをつかまえたことになるんだよね。
だから、
最初の言葉ぐらい、考えたほうがいい。
クルマを、止める。
「はい、スピード出したねー」
当たりまえ。
見たまんま、言うんだもん。
それじゃ、つまらないよね。
「あれ、お会いできました?」
「あ……お時間ありますか?」
言葉を変えていかないと、
世の中は、変わらないもん。
「はい、スピード出したねー」
そう言うから、そんなこたぁ、
言わなくてもわかってるんだ、
と、クチをとんがらがすんだもんな。
つらいときでも、
すこしでもよろこんでもらえるように
言葉を変えていかないと。
言葉が変わらないから、つまらなくなる。 |
糸井 |
サービスをするときに、
自分が裁判官になると、ダメですよねぇ。
おまわりさんの場合は、
「あなたは悪だからこらしめて、
ついでに、カネもとりますよ」
という儀式が必要だから、どうしても、
感じの悪さが、残るのかもしれないなぁ。 |
萩本 |
警察手帳に書いておいた、
自分で考えた言葉を見ながら
しゃべってほしいのよね。
「あ、やっちゃいましたね」とか。
そうでなければ、
あたらしい出会いに思えないから。 |
糸井 |
「知ってました? スピード」
「いや……ざっと」
「あの、25キロオーバーなんですよ」
「りょうかい」
そういうやりとりがありましたけど、
確かに、そのときは、怒らないで、
なにか同感しながら、払っていましたね。 |
萩本 |
いいですねぇ。その受けこたえ。 |
糸井 |
ただ、おまわりさんの場合に
善と悪のイヤな感じが残るのは、
仕方がないところがありますよね。
目の前で逃げている泥棒に対して、
「あ、つかまえる私も、仕事ですから」
と伝えるわけにはいかないですし。
スピード違反とか、駐車禁止とかなら、
もしかしたら、言えるかもしれないけど。
ただ、
現場の警察ならともかく
マスコミで報道するときに
善と悪を裁判するところとか、
他人の進退を、
「やめるべきだ」という前提で報道するのは、
「それはないな」と思うんだけど。 |
萩本 |
「当たりまえ」というものは、
いつも、えらそうに歩いているんです。
人が
おおぜいからせめられている姿を見て
10人が
「やっぱりアイツはダメだ」と言う。
だけど
あまり根性のない誰かが
「だからアイツを支持する」と思う……。
その、ときどき出てくるおもしろいことが
貴重なものかもしれなくて。
親しい放送作家のなかで
「毎年、甲子園にいっていたけど、
去年から、いかなくなった。
最近、みんな、
プロのマネばかりしているんだ。
プロとちがう仕草が好きなのに……
おなじことするなら、プロを見るよ」
と言うヤツがいたの。
おなじことをしているなら、
つまらないですからね。
(次回に、つづきます) |