萩本 |
野球も、
関係者以外がワイワイ言いながら
ひとりでになにかが変わっていく、
というのがいいよなぁ。
その世界のすごいヤツが、
なにかを考えて、みんなが従っている、
というのは……つまらない。 |
糸井 |
萩本さんは、
あたらしい血を入れることを
テレビの世界でも、
やってきたんですもんね。 |
萩本 |
テレビをやっているときも、
ドラマの作家は
ドラマの人が面倒を見る慣習があったから、
「笑いの人が
ドラマの作家を育てたら
おもしろいんじゃない?」
と、それで、
君塚良一(『踊る! 大捜査線』など)が
来たんですけどね。
笑いのできるドラマの作家がいたら、いい。
その発想ひとつで、うまくいくんだからね。
ほとんどの人が
才能を自分で決めて進んでいるんだけど、
才能って、誰かが認めるものじゃないの?
「おまえ、なにやりたいの?」
「マージャン屋なんですけど」
これを言ったのは、
詩村博史(『恋のから騒ぎ』など)
というヤツなんだけど、あ、こいつには、
ぜひとも作家になってもらおうと思った。
「ぼく、作家になれるわけがない。
字が、書けないんですから」
これが、いいの。
そういうヤツいないんだもの。
ほかにもたくさん作家になったやつらは、
みんな自分で「才能ない」って言ってる。
5年、オレんちに居候をしている。
「カンベンしてくださいよ、作家は……」
「5年もいて、
作家になってもらわなきゃこまるなぁ。
……じゃあ、こうするのはどう?
おまえ、考えなくていいからさ、
オレが考えたのを、活字に書け」
「それは、いいですねぇ」
それをテレビ局に持っていかせる。
「こないだの、
おもしろいってホメられました!
つい、欽ちゃんが書いてるんだ、
って、言っちゃいそうです」
「おまえ、それだけは言うなよな」
そんなやりとりをしていたヤツらでも、
そのうち、不思議なもんで、
放送作家に「なっちゃう」んですよね。
ディレクターたちも、そう。
「ディレクターになったけど、
テレビ作るの、はじめてなんだよなぁ……」
ぼくも、テレビのことなんて、知らなかった。
そいつとふたりで、番組を作ったんだもんね。 |
糸井 |
素人が、ただ、はじめる。
野球をやるときとそっくりですよね。 |
萩本 |
うん。
テレビでも、まったくの素人考え。
「アドリブで
長嶋さんインタビュー、入れたいよねぇ」
それで、なんにも許可をとらないで球場にいく。
「あ、いいのが撮れたぞ」で、放送しちゃった。
撮影したら
すぐに野球中継の関係者から、
「バカモノ!
許可とらないでやったから
オレたちの仕事が窮屈になった!」
と、怒られましたからね。
野球って、どこかに挨拶しなきゃいけないんだ、
と、はじめて知ったんだけど、
「せっかく撮っちゃったんだから、
流さなきゃ、もったいない」で、
ディレクターも、流して、
また、怒られてね……。
なにも知らないふたりのなかでは、
長嶋さん、ちっともイヤな顔を
してなかったもんな、
でできちゃったことなんですよね。
「欽ちゃん、なにしに来たの?」
「いや、こういうハガキなんですけど、
おもしろいですかねぇ?
『おまえには、
もうサジ投げた、と言ったら、
投げかえした息子がいた』というネタで」
「んー、一種の抵抗かなぁ?」
長嶋さん、ネタを真剣にとられて。
そういうのが、
テレビでは最高におもしろいわけですよ。
「流しちゃいけない。
流したらとんでもないことになるぞ」
そう言われてんのに、
ディレクターもぼくも、素人だから、
「こんなおもしろいものを……。
お客さん、絶対、よろこぶぞ!」
って、流しちゃった。
「あぁ、これでもうぼくは生涯
長嶋さんには会えないのかな」
と思っていたら、それから
10年ぐらい経ったら、ゴルフ雑誌の人から
「長嶋さんが、いっしょに
ゴルフをやりたいって言ってるよ」
と企画で呼んでいただいて。
ぜんぜん、怒ってなかった。
ルールを知らなかったから
できたことって、ありましたね。 |
糸井 |
萩本さんの話をうかがっていると、
昔は、もっといい意味で
「雑」だったと、つくづく思うなぁ。
雑種でも、雑食でも、なにかと
「雑」がないと、せちがらくなりますね。 |
萩本 |
そうだよね。ただ、そういうなかで
ぼくは気持ちよくやってたんだけど、
ただ、気持ちよくやりすぎていたみたいなの。
「ほんとうは、あのとき、どうだったわけ?」
何十年後、今になって、きいてみると……。
「今だから話せるんですが、
『おもしろい企画だから、
萩本欽一をどかして
ほかの○○さんを呼んで、番組にしよう!』
という会議が、ありました」
そういうの、知らなかったの。
今考えると、ゾッとするよね。
ただ、そういうようなもんだよ。
だって、萩本欽一はスゴイ、なんて、
みんな、思っていなかったんだから。
「せっかく作った企画なんだから、
なんとかしてやろうか」
「あいつ、
こまったやつだなぁ、
こんな企画を、持ってきて……
放送してやらなきゃ、なぁ」
誰も、
ぼくの企画が来たことを、
よろこんでいなかった。
ただ、それで、よかったのかもしれない。
人って、
「あいつは、スゴイやつにちがいない」
と思って使うから、
失敗したときに、ショックを受けるんじゃない?
しかたがないから、
放送してあげて、それで当たったら、
「あああ、あいつ、当てちゃったよ!」
のほうが、うまくいくのかもしれないというか。
(次回に、つづきます)
|