萩本 |
あとになって
テレビ局のスタッフにきいてみると、
「あれ、オレ、そんなことしたの?」
「ほんとなら、あぶなかったよなぁ」
ということが、たくさんあるんですよね。 |
糸井 |
萩本さんは、
たくさん仕事をしてるから
忘れているんでしょうね。
いっぱいするということには
そういう「いいこと」も、ありますね。
忘れていたおかげで、あんまり
いろいろなことを気にせずに走れたから。 |
萩本 |
クジラをつかまえると、
捨てるところがないって言うでしょう?
それと、ぼくのやったこと、おんなじなの。
番組で使うつもりで
オーディションで見つけてきた子がいたけど、
番組ができていくうちに、
どんどん、その女の子と、あわなくなってきた。
なにをしても、ちぐはぐになってしまって……、
こまっていたけど、
その子が、番組から、抜けちゃったわけ。
「わかった。この子は、テレビ朝日に持っていく」
その子の名前が「かなえ」っていうんで、
ほかにふたりの女の子を見つけておいてもらって、
「のぞみ」「かなえ」「たまえ」で番組ができた。
企画って、いっぱい考えておくのよ。
まぁ、ぜんぶ、落とされるんだから。
捨てないんだ、と思えば、
企画を考えることが、たのしくなってくる。
だいたい、企画って、80%は落とされるんです。
「あぁ、ダメね、あぁ、わかりました」
と、ダメでも、その企画をメモしておけばいい。
次のテレビ局にいったときに話したら簡単だよね。
だって、もう、さんざん、しゃべったものだから。
「こんなの、どう?」
「それ、新鮮だね!」
そうやって企画は捨てずに使いましたから、
ほかの局の人たちは、
「あれ?
オレのところで言っていた企画だぞ。
突然、もういいです、と言ったと思ったら、
あっちで使ってらぁ」
そう思うわけ。 |
糸井 |
アイデアも大事なんだけど、
アイデアの外にある「つながり」を、
萩本さんは大事にしてきたんですね。
だって、
「じゃあ、その子はうちで使いましょう」
と言ってくれるつながりがなければ、
企画は、だいたいがそこで終わりますから。 |
萩本 |
そうなんですよね。
だから、もしかしたら、
たくさん仕事をしたら、イイのかもしれない。
みんな、ひとつの仕事だけしかやってないから、
考えても捨てるものが、多いんじゃないですか?
考えて、捨てて、がっかりする。 |
糸井 |
意固地にもなりますよね。 |
萩本 |
うん。
「せっかく、考えたのにな」と思っちゃうもんね。
でも、ぼくの場合は、
「欽ちゃん、
今のままで、当たっているんだから、
そんな余計なことをしなくていいんじゃない?」
「オッケー。そうよねぇ」
と言ったら、次、もう、テレ朝にいくんだから。 |
糸井 |
「競争」でないところでやってきたんだなぁ、
と、つくづく思いました。
萩本さんに教えていただいた
「すごい選手は、ほかの選手を助けてあげる」
というのは、
いろいろなことのヒントになりそうですし。
「助けてやれよな」の、ひとことですよね。 |
萩本 |
だって、
かせげるヤツは、かせげるんなら、
ほかのヤツ、連れていかなきゃねえ。
かせげる人の意見はとおるんだから、
生きやすくなるもん。 |
糸井 |
成果主義と言われていて、
「どのぐらいかせぎだしたかで、
あなたの給料が決まりますよ」
なんていう競争原理のなかにいると、
ノウハウを同僚に教えなくなるそうなんです。
それじゃ、硬直しちゃいますから。 |
萩本 |
うん。
損得じゃなくやんなきゃ、ね。
損得なしの話は、
子どもの世界には、あるの。
図工の時間に、
ひとりが、いなくなっちゃった。
クレヨンだけ、机に置いてある。
そのうちに、走って教室に来た。
「なんで突然いなくなったの!」
「クレヨンを取りにいったんだ。
クレヨン、忘れちゃったからさ」
「クレヨン……そこにあるじゃない?」
「ぼくのクレヨンじゃないんだ。
○○さんのを、取りにいったの。
○○さんなら、
足がおそいからまにあわなくなる。
ぼくなら、はやいから、取りにいった」
自分の持っているもので
相手の足らないぶんを助けるという……。
助けても、足のはやさは、減らないんだ。
野球でも、
損だの得だの言ってたら、つまんないよね。
「5回投げると勝利投手の権利がある」
このときの「権利」って、なんなんだろう?
権利があるなら、
「5回投げたら、勝ち投手になっちゃうから、
最近、勝ってないあいつに権利をゆずるよ」
のコンビプレイを見てみたい。
勝つ、負ける、だけでやっていると、なんか、
男だけがよろこぶ世界になってしまいますよね。
つまり、それなら、勝負ごとにしか、ならない。
でも、
「あのコンビが好きだ」とかいうことがあれば、
お客さんにとっての価値は、倍になるんです。
「欽ちゃんがいい!」
それだけでは、お客さんは、増えていかない。
いくらなんでも、子どもからおとなまで、
ぜんぶを満足させるタレントって、いないよ。
「二郎さんのほうが、おもしろい!」
「お母さん役の、順子さんがいい!」
「でもやっぱり、欽ちゃんがいい!」
コンビネーションがあれば、会話が生まれる。
いろんな目線があるほうが、たのしくなるんだ。
番組の視聴率がよかったときだって、
「欽ちゃん! 30%、とってあげた。
オレのおかげだからな!」
カメラマンさんが
そう言いにきてくれたほうが、うれしいの。
たしかに、
「この内容で30%いってないのは、
カメラさん、
遊びながら撮ってるんじゃないの?」
と、きびしいことを、言っていたから。
「フジテレビでは30%とった。
それがTBSでとれないのは……
遊びながら、やってんじゃないですか?
もっと、命をかけて、
仕事をしたほうがいいですよ」
「失礼なことを言うな!」
「失礼って……
30%もとらないで、なにが失礼だ!
おまえさんのほうが、失礼だろう!」 |
糸井 |
それは、たとえ冗談にしても
本気にとっちゃいますよねぇ。 |
萩本 |
番組が終わったとき、
カメラさんに、言われたの。
「あのときに、目が覚めたんだ。
ほんとのことを言うと、
本気で、やっていなかったから。
それからは、本気でやった!
オレ、そのこと、今、言えたんだ。
30%、とったんだからね。
欽ちゃんに、
30%、とってあげたんだからね!」
「ほんとに、どうもありがとう……」
(次回に、つづきます) |