欽ちゃん!2006 

萩本欽一さんの、おもしろ魂。
最新の記事 2006/05/23
14 企画は、8割、落とされるから

萩本 あとになって
テレビ局のスタッフにきいてみると、
「あれ、オレ、そんなことしたの?」
「ほんとなら、あぶなかったよなぁ」
ということが、たくさんあるんですよね。
糸井 萩本さんは、
たくさん仕事をしてるから
忘れているんでしょうね。

いっぱいするということには
そういう「いいこと」も、ありますね。

忘れていたおかげで、あんまり
いろいろなことを気にせずに走れたから。
萩本 クジラをつかまえると、
捨てるところがないって言うでしょう?
それと、ぼくのやったこと、おんなじなの。

番組で使うつもりで
オーディションで見つけてきた子がいたけど、
番組ができていくうちに、
どんどん、その女の子と、あわなくなってきた。
なにをしても、ちぐはぐになってしまって……、

こまっていたけど、
その子が、番組から、抜けちゃったわけ。

「わかった。この子は、テレビ朝日に持っていく」

その子の名前が「かなえ」っていうんで、
ほかにふたりの女の子を見つけておいてもらって、
「のぞみ」「かなえ」「たまえ」で番組ができた。

企画って、いっぱい考えておくのよ。
まぁ、ぜんぶ、落とされるんだから。
捨てないんだ、と思えば、
企画を考えることが、たのしくなってくる。

だいたい、企画って、80%は落とされるんです。
「あぁ、ダメね、あぁ、わかりました」
と、ダメでも、その企画をメモしておけばいい。
次のテレビ局にいったときに話したら簡単だよね。
だって、もう、さんざん、しゃべったものだから。

「こんなの、どう?」
「それ、新鮮だね!」

そうやって企画は捨てずに使いましたから、
ほかの局の人たちは、
「あれ?
 オレのところで言っていた企画だぞ。
 突然、もういいです、と言ったと思ったら、
 あっちで使ってらぁ」
そう思うわけ。
糸井 アイデアも大事なんだけど、
アイデアの外にある「つながり」を、
萩本さんは大事にしてきたんですね。

だって、
「じゃあ、その子はうちで使いましょう」
と言ってくれるつながりがなければ、
企画は、だいたいがそこで終わりますから。
萩本 そうなんですよね。
だから、もしかしたら、
たくさん仕事をしたら、イイのかもしれない。

みんな、ひとつの仕事だけしかやってないから、
考えても捨てるものが、多いんじゃないですか?

考えて、捨てて、がっかりする。
糸井 意固地にもなりますよね。
萩本 うん。
「せっかく、考えたのにな」と思っちゃうもんね。

でも、ぼくの場合は、
「欽ちゃん、
 今のままで、当たっているんだから、
 そんな余計なことをしなくていいんじゃない?」
「オッケー。そうよねぇ」
と言ったら、次、もう、テレ朝にいくんだから。
糸井 「競争」でないところでやってきたんだなぁ、
と、つくづく思いました。

萩本さんに教えていただいた
「すごい選手は、ほかの選手を助けてあげる」
というのは、
いろいろなことのヒントになりそうですし。
「助けてやれよな」の、ひとことですよね。
萩本 だって、
かせげるヤツは、かせげるんなら、
ほかのヤツ、連れていかなきゃねえ。

かせげる人の意見はとおるんだから、
生きやすくなるもん。
糸井 成果主義と言われていて、
「どのぐらいかせぎだしたかで、
 あなたの給料が決まりますよ」
なんていう競争原理のなかにいると、
ノウハウを同僚に教えなくなるそうなんです。
それじゃ、硬直しちゃいますから。
萩本 うん。
損得じゃなくやんなきゃ、ね。

損得なしの話は、
子どもの世界には、あるの。

図工の時間に、
ひとりが、いなくなっちゃった。
クレヨンだけ、机に置いてある。

そのうちに、走って教室に来た。

「なんで突然いなくなったの!」

「クレヨンを取りにいったんだ。
 クレヨン、忘れちゃったからさ」

「クレヨン……そこにあるじゃない?」

「ぼくのクレヨンじゃないんだ。
 ○○さんのを、取りにいったの。
 ○○さんなら、
 足がおそいからまにあわなくなる。
 ぼくなら、はやいから、取りにいった」

自分の持っているもので
相手の足らないぶんを助けるという……。
助けても、足のはやさは、減らないんだ。

野球でも、
損だの得だの言ってたら、つまんないよね。
「5回投げると勝利投手の権利がある」
このときの「権利」って、なんなんだろう?

権利があるなら、
「5回投げたら、勝ち投手になっちゃうから、
 最近、勝ってないあいつに権利をゆずるよ」
のコンビプレイを見てみたい。

勝つ、負ける、だけでやっていると、なんか、
男だけがよろこぶ世界になってしまいますよね。
つまり、それなら、勝負ごとにしか、ならない。

でも、
「あのコンビが好きだ」とかいうことがあれば、
お客さんにとっての価値は、倍になるんです。

「欽ちゃんがいい!」

それだけでは、お客さんは、増えていかない。
いくらなんでも、子どもからおとなまで、
ぜんぶを満足させるタレントって、いないよ。

「二郎さんのほうが、おもしろい!」
「お母さん役の、順子さんがいい!」
「でもやっぱり、欽ちゃんがいい!」

コンビネーションがあれば、会話が生まれる。
いろんな目線があるほうが、たのしくなるんだ。

番組の視聴率がよかったときだって、
「欽ちゃん! 30%、とってあげた。
 オレのおかげだからな!」
カメラマンさんが
そう言いにきてくれたほうが、うれしいの。

たしかに、
「この内容で30%いってないのは、
 カメラさん、
 遊びながら撮ってるんじゃないの?」
と、きびしいことを、言っていたから。

「フジテレビでは30%とった。
 それがTBSでとれないのは……
 遊びながら、やってんじゃないですか?
 もっと、命をかけて、
 仕事をしたほうがいいですよ」

「失礼なことを言うな!」

「失礼って……
 30%もとらないで、なにが失礼だ!
 おまえさんのほうが、失礼だろう!」
糸井 それは、たとえ冗談にしても
本気にとっちゃいますよねぇ。
萩本 番組が終わったとき、
カメラさんに、言われたの。

「あのときに、目が覚めたんだ。
 ほんとのことを言うと、
 本気で、やっていなかったから。
 それからは、本気でやった!
 オレ、そのこと、今、言えたんだ。
 30%、とったんだからね。
 欽ちゃんに、
 30%、とってあげたんだからね!」

「ほんとに、どうもありがとう……」



(次回に、つづきます)
 
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