欽ちゃん!2006 

萩本欽一さんの、おもしろ魂。
最新の記事 2006/05/25
16 道化が本物をひきたてる

糸井 萩本さんが、
野球チームをつくるときに
まだ、選手も地元もわからない、
ただ、チーム名だけの段階で
発表したというのは、
おもしろいなぁ、と思いました。
萩本 球場が決まる前から、
監督しかいないのに
発表して、はじめましたからね。

球場よりも
町のほうが最初だろう、
と思っていたの。

「欽ちゃん、来てもいいよ!」

ファンや、
商店街のほうがもりあがって、
それからいったほうがいいですよ。

勝手に球団を作って、
「じゃ、今からいくからね」
それよりは、自分たちで
応援をはじめたいんじゃないの?

「オレたちも、そろそろ、
 町をどうにかしようと思っていたんだ。
 欽ちゃん、来てもいいよ!」

そこから、コンビを組めばいい。

ぼくは、
ひとりの芸人としては
テレビ局にことわられた人ですからね。
坂上二郎さんと組んだら、
テレビにすぐに出られるようになった。
つまり、コンビを組んでいきたいのよ。

ぼくは、
野球がきたことで
商店街に人がたくさん通ることを
考えればいいんだし、
町のほうは、球団がうまくいくことを
考えればいいわけで。

野球を観たあとに
家に帰って、
「勝った」「負けた」
とだけ、言うんじゃなくて、
「今日は、おかしかったよ!」
と感想を言えたら、しめたもんだよ。
負けたとしても記事になる野球になら、
人も、集まるんじゃないかと思うから。
糸井 ほんとにそれが欠けていましたからねぇ。
萩本 じつは、
野球をはじめる前に、
都市対抗も、大学野球も、
ぜんぶ、自分で見にいってみたんです。
そこに、お祭りの要素はなくなってた。
どんどん、人がいなくなっていたの。

企業の持っていた
都市対抗野球のチームも、
どんどんすくなくなってきていた。
大学野球には、
自分のところの学生たちも
応援にきていない。
大学野球のスターも、
プロ野球にいきたがらなくなっている……。

これは、どういうことかというと、
「もう、野球、カンベンしてくれ」
と、捨てられていたわけですよね。

「野球に参加すると、
 お金がかかって、損をしちゃうぞ」
それがなくて、
「この野球に参加しただけで、
 けっこう豊かになっちゃったなぁ」
と思えるお祭りになればいいと思うんだ。

本物は、やはり、
道化がいないと、ひきたたないんだし、
ピエロの野球も
あっていいんじゃないかなぁ。

黙っていられなくなる、ピエロたちの野球。
「あそこにいかないと、
 損みたいな気がしちゃうなぁ」と集まる。
 
そうすれば、
誰にも迷惑はかけないんだからね。

今まで、
野球が捨てられそうになっていたのは、
野球が、お金とかの面で、
いろいろなところに
迷惑をかけちゃっていたからだもん。
糸井 プロ野球は、
「優勝しても、もうからない」
とさえ、言われていましたからね。

「優勝すると、選手の年俸があがる。
 だから、おさえるべきではないか」

実際に、経営者は
そう考えてもおかしくないですからね。

「優勝しなきゃ、意味がないんです」

これは、どの監督も選手もいうけれども、
その目的さえも、
最近はグラついてしまっていたから、
これは、構造としてむずかしかった……
ただし、優勝の意味を
具体的にわかっている人が出てくると、
変化が起きるんです。

たとえば、原監督は、
お父さんの原貢さんの背中を見てきた人です。

原貢さんは、
炭坑の町で、
無名高校の野球監督をやっていて……。

福岡県立三池工業高校が
初出場で甲子園で優勝したときに、
町が、変わった。
原監督は、そのときのことを、
「人口が、倍になったんです」
と、前に、おっしゃっていました。

炭坑の町が、
もうこれからダメになるんじゃないか、
というときに、
高校野球が優勝して、
おおきなお祭りが、ドーンとやってきた。

その姿を、少年時代の原辰徳さんが見ていて、
「野球って、スゴイ」と思ったらしいんです。

そういうことが、
野球という祭のすごさだと、ぼくも思うんです。

そういうよろこび、
今、優勝しても、ないじゃないですか。

選手の年俸があがらないように
チームの優勝については、加減してしまう?
優勝したところで、すぐに忘れられちゃう?

優勝しても、やるのは、
「汚さないようにしましょうね」と
せまいところに閉じこもってのビールかけ……。
あとは、儀式で旗を持ってぐるぐるまわるだけ。

これ以外の祭、あったほうが、うれしいですもんね。
萩本 ビールを持って、
町を訪問したいなぁ。
商売繁盛を祈って、お店でビールをかけるとか、
とにかく、外に出てみたいですよね。
外に出れば、それだけで、絵が変わるんだから。

優勝の価値は、3番目ぐらいで、いいのよ。

いちばんは、
お客さんがいっぱい来ることだもん。

2番目は、たぶん、野球にたずさわって、
もうかる人がたくさんいること、でしょ?

それで、もしも勝ったら、最高だもんね。
だから、3番目でもいいんですよ。

もし、優勝することを1番にしていたら、
パ・リーグでも、セ・リーグでも、
6球団のうちのひとつしか実現できない。
昔は、それが巨人の野球だったんですよね。
「勝ち」のおもしろさを、見せてきた。

「勝ち」のおもしろさも、あっていいけど、
それだけじゃないもんね。
負けてもお客さんが来る、とか
負けてもお客さんには損をさせない、とか、
あってもいいじゃない。

「あの選手の、あの仕草がいいんだよなぁ」

「あのピッチャーは、打たれると
 いちいち泣きだすところが好きなんだよね」

見せるものは、たくさん持っているはずなの。
ぼくは、昔、テレビで、
当時、とても人気のあった巨人戦の裏番組で
「欽ドン野球」というのをやったことがあります。
それ、たしか、視聴率で30%、いったんですよ。
子どもが出て、野球やってるような番組が、
巨人戦と互角の勝負ができたんだからね、
やってみれば、なにか、できるはずだよ?

テレビで
ハガキを紹介したことに似ているかもしれない。
「テレビにも、
 歌のうまいヤツや、おもしろいヤツ以外にも、
 出演したいヤツが、いるんじゃないか」
そう考えて、ハガキを募集したんです。
テレビに、はずかしくて出られないけど、
考えることで、出演したいヤツらは、いたもんね。
つまり、ハガキを書いて、それが読まれると、
そいつの出演になるわけで。

野球も、
野球ができるヤツしか
参加できないようなら、栄えませんよ。
こんなにも、はやくから
才能を断念しなければいけない世界は、
放っておいたら、せまくなる。
糸井 そうそう。
少年マンガでは、
野球部のマネージャーは、
けっこう、かわいい女の子ですもんね。
野球以外のドラマが、求められてるから。
萩本 それ、それ。
糸井 女の子、
メガネをかけていたりするけど、
ころぶと、ハズれたりして……。
萩本 (笑)そういう脇役が生きてこないと、
ひとつの産業って、栄えないもんね。



(次回に、つづきます)
 
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