糸井 |
高校野球で
「負けた学校が歌をうたう」
というアイデアは、
ほんとに見事だと思う。
誰も、こまらないし。
歌なら、誰も怒らないですよね。
勝ったチームは、
勝ってよかった、なんだもん。
「歌ぐらい、くれてやれ」ですよね。 |
萩本 |
(笑)そうだそうだ。歌ぐらい。 |
糸井 |
サッカーなんかで
ユニフォームを交換しますけど、
贈りあうものを持ってきてると、
いいかもしれませんね。 |
萩本 |
いいねぇ。
野球をとおして、町が見えてくる。
同時に、物産展にもなっちゃうの。 |
糸井 |
まずは、県の花の交換から……。 |
萩本 |
そうすると、
はっきり、わかるもんね! |
糸井 |
客席レベルでも、
花を贈りあえばいいんじゃない? |
萩本 |
いいねぇ……
今度、ウチにとりいれよう(笑)。 |
糸井 |
(笑)結局、なんか、ムリなことを
ひとつふたつ、入れたほうがいいですよね。
それで、最後は、負けたほうがうたう、と。
「ウチは、歌、ないんで、
ハウンドドッグの、うたってイイですか?」
負けたほうがうたう、のひとことで、
どんどん、いろんな発想が出ますよね。
勝ったほうが
うれしがりすぎると、
みっともなくなりかねない……。
だから、掃除をしていくだとか。
あまりに、よろこびすぎるより、
「いや、勝負は、紙一重ですから」
と、殊勝にね。
そうじゃないと、
「次から、
あいつらとやりたくないよなぁ」
と思っちゃうもん。
ガッツポーズも、
ふだんしない、地味な選手が
ちっちゃくするから
「オマエの気持ち、わかる!」
と思えるのであって。
つよい人は、誇りすぎたらいけない、と……
「実るほど 頭を垂れる 稲穂かな」
萩本さんのチーム、そんな方針はどうですか? |
萩本 |
(笑)ええ、そうしますよ。
ただ、応援している人たちは、
勝つと、よろこんでくれるんでね。 |
糸井 |
誇りすぎない気持ちが
つたわってきたら、
いい応援団になりますよね。
阪神の金本選手とか、
相手のチームからも
拍手がもらえる人ですよね。
ああいう紳士的なシーンで、
「野球って、いいよなぁ」と思いますから。 |
萩本 |
ただ、ベンチにいると、
ヤジは、品がないよねぇ……。
こないだも、
向こうから、ヤジがきこえてきたの。
ただ、そのヤジをきいたときに、
「あ、勝った!」と思ったのよ。
うちよりもヤジがうまいんだもん。
ヤジでは、神さまは、勝たせないよ。
でも、ヤジは、習慣なのかなぁ。
なくならないね。 |
糸井 |
相手のイヤがることをするのが
野球だとは言いますけど、どんどん
そればかりをつみかさねてしまうと、
キリがなくなっちゃうと思うんですよ。
「どこまで、きれいな野球を目指すか」
これは、チームの方針として、
それぞれが、掲げていればいいと思うんです。
「負けても、かっこいいチームだよなぁ」
それが、亡くなった藤田監督の野球のことを
ぼくが、大好きだった理由のひとつですから。
人が、絶対にイヤがることを言われて
打てませんでした、ということをやるなら、
「家に火をつけてもいい」
みたいなレベルまで、いっちゃいますもん。 |
萩本 |
ただ、公式戦なんか
マイクを持たないから、することがなくて
ぼくは、遠くにいますからね。
関ヶ原の合戦で
徳川家康は、最前線を見てなかっただろうな、
と思うから。
「今、どうなってる? 打たれているか?」
そのほうが、冷静に見ていられるの。
ベンチに入っていると、試合がおもしろすぎて、
作戦なんて、考えられなくなっちゃうから。
そうすると、おもしろさに連れていかれて、
作戦の判断が、狂っちゃうんじゃないのかなぁ?
ただね、選手たちは、
「あーあ、ホームランを打ったのに、
監督が、見てなかったんだもんな……」
って、ボヤいていますけどね。
「そういう、
運のないホームランは打たないでほしい。
監督が、たまたま見ているときに打とうな!」
そう、つたえているの。
監督の目線で見ていると、
「ここで打ってほしいな」
というときに打つのが、大事ですよね。
何割打ったかは、あんまり、関係ない。
大事なとこしか、見にいかないんだもん。
「ここで、もしも打ったら、エライよぉ!」
そのときに、ベンチにはいるんですから。 |
糸井 |
野球をやって1年経つのに、
萩本さん、そのスタンスが
野球をする前から変わっていないのが、
すごいなぁ、と思いますよね。
ふつうだったら、
「野球に詳しくなったので、
乱暴なことを言っていた昔の自分とは
ちがってきちゃったんですよ」
という要素が、出てくるころですから。 |
萩本 |
ぜんぜん、野球に詳しくならないのよ。
(次回に、つづきます) |