糸井 |
萩本さんが
野球の監督をやってみて、
予想どおりだったところは
どんなところでしたか? |
萩本 |
お客さんが、
野球に、今までとはちがうことを
求めているのは、予想どおりだったね。
ただし、
「ちがう野球」は、もとめていない。
「ヒット打ったら、3塁に走って」とか、
そういうのは、別に、見たくないみたい。
だけど、野球場で、これまでと
ちがうものを見てみたいというのは、
お客さんの反応でも、
予想どおりだなと思ったよ。 |
糸井 |
野球の試合がはじまる前とか
試合が終わった後の
遊びかたについては、
実際に経験をしてみて、
どんなふうに、思いましたか? |
萩本 |
うちの野球の場合は、
試合が終わってから、
お客さんが帰らないもんね。 |
糸井 |
見たことのない景色ですよね、あれは……。 |
萩本 |
お客さんも、
「野球が終わった後には、
30分間のショーが
はじまるんじゃないか」
と思って、
動かないでいてくれるんだもんね。 |
糸井 |
それを、負けてもやるのがスゴイなぁ。
ふつう、負けるとつまらなくなるし、
ファンに文句を言われないように、
すぐに帰る、となりがちだけど。
社会人野球の公式戦のときに、
「コワイ」ほどマジな顔になっていて、
「コレは、欽ちゃんじゃなくて、
萩本欽一さんじゃないか!」と、
テレビで見ていても思ったんだけど……
あれは、どんな体験でしたか? |
萩本 |
あれは、もう、苦しかったよ。
野球の勝ち負けのおもしろさに、
持っていかれちゃうんだもんね。
選手でも、
おどすとダメな子と、
おどすと伸びる子がいるでしょう?
1回、「この野郎!」と怒ったら……
まわり、真っ青になって、
「なにか、ご気分の悪いことでも、
あるんですか」と、きくわけね。
いつも、ニコニコしていたものですから。
「いや、そうじゃないのよ。
怒ると、選手がどうなるのかを、
やっただけなんだけどね……」
選手が、どう変化するのかを見たいの。
注意すると、会話が生まれますからね。
「ごはんに連れていっても、
ひとことも話さない……石か?
いや、石じゃイイものすぎる。
石ができるには
何千年もかかるから。泥か?」
そんな風に、言ってたら、何日かして、
「泥でなく、
石になれるように、がんばります」
と言ったもんね。 |
糸井 |
やりとりで、
そのセリフが生まれたんですよね。
野球チームをやりつづけるための、
お金については、今は、
「セーフ!」という状態なんですか?
つぶれてないように見えるんですけど。 |
萩本 |
数字は、見たことがないね。
ただ、
ぼくには、お金は一銭も入ってこない。
心のなかでは、
「はやく、やめなきゃなぁ」と言ってるの。 |
糸井 |
(笑) |
萩本 |
冗談で、やっていることなのよね。
プロでもないし、アマチュアでもない。
冗談だから、できることがあるんだ、と……。 |
糸井 |
すぐに仕事になることなら
誰もが飛びつくことだから、
おもしろくもないし、独創性もないもので。
ただ、もちろん、
絶対に仕事にならないことなら
やらないほうが、いいはずで。
だから、目的がわかれてきますよね?
「この局面では、
トントンでいいんだ」とか、
「これは、
この目的のためにやること」とか。
つまり、萩本さんの野球は、
総合的に見れば、大成功だと思うんです。 |
萩本 |
選手には、
「気持ちのいいヒット、打ったよね!
思いきって、20万円、出しといて!」
とか、言ってるの。
でも、心の中では、
「……そのお金、
どこから出てくるんだろう?」
と、思っているのよ。 |
糸井 |
(笑) |
萩本 |
「あとで、請求書が、
ぼくのところに来るのかな」とか。
もちろん、
お金は、かかるつもりで、
やりはじめたんです。
ただ……持ちだしては、いないんですよ。
「選手に払うギャラとか、
コーチに払うギャラは、ないんですけど」
そういうことは、みんな、ないの。
だから、球団運営は、うまくいっています。
うまくいっていないのは、
ぼくのところだけだよね。 |
糸井 |
もしかしたら、
入園料をたくさん払う人こそが
VIP待遇を受ける、
みたいなことかもしれませんね。
球団という、でっかい遊園地を、
「オレが言ったら、好きにやらせてね!」
と、その権利を、
買っているとも言えるのかもしれなくて。 |
萩本 |
そうだよね。
ただ、選手には、
「給料、出してやるよ!」
と、言っているんです。
ただ、ね……
どこから出てるか、気づいてくれる人が、
ひとり、いてくれるとうれしいんだけど。
「それよりも、
監督、あなたがもらったほうが
いいんじゃないの?」
ぼくなら、そう言える選手になりたいな。 |
糸井 |
(笑) |
萩本 |
誰か、言わないかなぁ、と思うんだけどね。
まぁ、
「野球は、ぼくの遊びなんだ」
と思ったら、最高の舞台なのよ。 |
糸井 |
萩本さんたち、今度は、
インドにいくというのはどうですか? |
萩本 |
うん。いいよね。
選手たちは、
メジャーにいきたい、とか言うじゃない?
だから、逆のことを、したくなるもんね。
ぼくがいったのは、
「今年は
野球をやってない、
サッカーのさかんな
ヨーロッパに
挑戦しにいこうよ!」
ということなんです。 |
糸井 |
「もう、何時間、
バスに乗ってるんですか!」
選手がグチを言いだすぐらいの距離で。
インド、いったことがあるんですけど、
バックミラーどうしが
ぶつかりあうような運転で
8時間ぐらい、
バスに乗っているあいだじゅう……
ずっと、外の景色に人がいたんです。
球場のラインを引くところから、
ユニフォームを寄付するところから、
地元の人たちと
ふれあうみたいなやりとりを、
欽ちゃん球団がやったら、
いいだろうなぁ、と思いました。
なにが起こるか、
わからないことをするのが、
おもしろいんだもんね。
インドは、観客は、いてくれますから。 |
萩本 |
それなら、理想ですよ。 |
糸井 |
ロケで、
人力車が1台、必要だったんです。
すると、
ものすごい勢いで
ウワサがひろがって……
人力車が、100台ぐらい
集まったことがありまして。
「……そんなに、要らない!」
でも、なんか、おもしろい景色になった。
ひとりにだけ、
ギャラを払ってロケバスに乗ると、
集まったほかの人力車たちに、
追いかけられて……。
ぼくがいったのは
南インドですけど、
そういう「混乱」のなかに、
野球が飛びこむことは、
おもしろいと思うんです。
欽ちゃんは、
マイクを持って、なにを言うのか?
それを、見てみたいなぁ。 |
萩本 |
ただ、
知らない国にいって、
いきなり
日本語で話されるのって、
すごいガッカリしません?
ぼくは、びっくりしたのは、
ドバイの空港にいって、
「おぉ、欽ちゃんー」
着いて、いきなり、
「欽ちゃん」って、ききたくないよね。 |
糸井 |
(笑) |
萩本 |
びっくりして
「あれ?」って言ったら、
「ウン、東京に、いたの。
今、こっちに来てるの。
桜新町に、住んでたの」
飛行機に9時間も乗ってきて、
いきなり「桜新町」と、
きいたからなぁ(笑)。
(ふたりの会話は、
いったん、ここで終わりますね。
ご愛読を、ありがとうございました。
萩本欽一さんの「ほぼ日」への次回の登場を
どうぞ、たのしみに
していてくださいませ!) |