糸井 |
不本意ではない人生は、なにかと言うと……。
たとえば、
一般的な、高校生の若い男の子は、
ものすごく女の子が好きなはずですよね?
できたら、AV男優になりたいというぐらいに。
「あいつ、あんなことやってるんだ?」
と言われなければ、その頃の男の子って、
「その仕事をやってみたいんだ」
と本気で思うくらい、好きだと思うんですよ。
そういう職業を選んだら「本意」ですよね。
でも、そういう道には、
行くことができないんだ、と、だんだん、
おぼえさせられて、会社員になるわけです。
きっと、ぼくも、
「誰も後ろ指をささないで、しかも、
親の財産がや山ほどあって、困るぐらい」
という人間だとしたら、すごくつまらないことを、
「これが、俺の人生だ!」
と本気でやると思うんです。
だけど、そんな人は、なかなか、いない。
稼がなきゃいけないだとか、
人がなんか文句を言うだろうだとか、
「その道は、ないだろうなぁ……」
という気持ちを、どこかで学ぶわけです。
それで、
「ま、しょうがないか」
というもののかたまりとして、
今、ここにいるような気がするんですよ。
きっと、ゴリラの親分にでもならないかぎり、
みんな、全員が不本意なんじゃないかなぁ。
そんなことを、急に思ったんです。 |
萩本 |
そうだと思う。
ただ、不本意であっても、正直に、
「不本意です」
と言う人がいないですよね。
「不本意だ」と言えるには、
そうとう勇気が要りますよね?
……ぼくも、不本意だったんだけど、
テレビ界では、テレビはたのしいし、
テレビはいいと言いつづけていました。
不本意って、今だから、言ってるんでね。 |
糸井 |
そうですよね。 |
萩本 |
当時は、言う気、なかったですもん。 |
糸井 |
不本意だって言える人にこそ、
テレビを、任せたいですよね。 |
萩本 |
うん。
その人が、ほんとのテレビじゃない? |
糸井 |
ほんとに、そうです。
「禁煙すると、モノの味がわかる」
と、切々と言う人がいるわけです。
ただ、そのことについては、ぼくは、
ずっと、あやしいと思っていました。
ぼくの好きな料理を
作ってくれる板前さんには、
タバコ吸ってる人はいっぱいいるんです。
それに、ぼく自身も、
タバコを吸っているときに、
味がわかんなかったかと言われたら、
「おまえのほうがわかんない!」
と言いかえしたいぐらい、
わかっていたつもりでもありました。
もちろん自分なりの好みがありますけど、
これとこれと比べたら、
こっちがうまいとかいうことも、
微妙な味の差についても、
タバコ吸ってる時代にわかっていました。
舌というセンサーが
どんなにとぎすまされているかよりも、
もっと大事なことがあると思うんです。
センサーが正しければグルメだったら、
赤ん坊が、いちばんいいはずですよね。
だけど、うまいだのまずいだの考えるのって、
センサーで感知したあとの、
情報処理をする脳の部分なのであって……。
だから、舌のセンサーの純度よりも、
食べるうえでは、
いいこともわるいことも、
さんざんしてきた人のほうが、
味がわかるに決まっていると思いました。
こういうことは、
ずーっと前から思っていたことですが、
いま、人の進んでいく道にも、
それが言えるんじゃないかと考えたんです。
不本意こそが、おもしろい。
小さいころのまま、
ゴリラの大将みたいになって、
殴りあいをして、チンコを出して、
腹いっぱいになっちゃあゴロゴロするという、
思いどおりの人生なんて、
おもしろくもなんともないですから。 |
萩本 |
本意って、実は、おもしろくない。
そうなんだと思いますよ。 |
糸井 |
仇役のいないドラマみたいに
なっちゃいますよね。 |
萩本 |
だから、
不本意で自殺しちゃう人は、
もったいないなぁと思うのね。 |
糸井 |
そうです、そうです。 |
萩本 |
あんたは、
その不本意を真剣に考えているけど、
そのへんにいる人全員が、
「不本意ななかにいるという、
いちばん、おもしろい人生」
を歩もうとしているんだよ、と言えるから。
だから、自殺という
いちばんつまらないほうにいくのは、
それは、もったいない。
他に、なんか置いていけよ、という感じで。 |
糸井 |
ほんとですね。
でも、そう言ってくれる人がいないから、
その人は、死んじゃうんですよね。 |
萩本 |
そうそう。 |
糸井 |
つまり、ひとりぼっちが
いちばんよくないんですよね。 |
萩本 |
ただ、糸井さんがおっしゃった、
「不本意こそが人生だ」
という、そこの活字を見ただけでも、
今、死のうとする人のなかで、
「これがいいんだ」と気づく人はいると思う。 |
糸井 |
「今日も不本意だった。
おもしろかったなぁ」
ということですよね。 |
萩本 |
ええ。
でも、活字やテレビでは
「不本意」という言葉は、カットになるんです。
だから、
「全員が不本意であること」
について、みんなは、気がつかないから。 |
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(明日に、つづきます) |