おしい!食べられるんです!
ブナハリタケ 食
写真と文章/新井文彦

ブナハリタケは、
主に弱ったブナから生える、半円形の白いきのこで、
傘の裏に針のような小さくて細い突起がたくさんあり、
握ると絞れるほど水分をたっぷり含んでいます。
北海道・道東地方では、ブナは見られないので、
(ブナの北限は、道南の寿都郡)
カエデなどの広葉樹から発生します。

甘いような独特の香りが多少鼻につきますが、
晩秋を代表する食用きのこだと言えるでしょう。
お味も、なかなかです。

多くの場合、重なりあうように大量発生するので、
その気になれば、大収穫が見込めるのですが、
採取は、その日食べる分くらいにしておきましょう。

ブナハリタケの香りは、
ニンゲンにも嗅ぎ取れるくらいゆえ、
小さな虫たちをも惹きつけてやみません。

朝方、日の出前。
真っ白いブナハリタケが、
白黒のごま塩模様に見えるくらい集まっている、
おびただしい数の、虫、虫、虫、虫、虫……。
樹の幹から半円形に飛び出した傘は、まさに、
小さな羽虫たちの雨よけにもぴったりです。

朝日を浴びつつ一斉に飛び立った虫たちは、
空中で、停止、移動を繰り返し、やがて、離散。
虫が嫌いな人にとっては地獄のような光景ですよね。
ふふふ。

この写真を撮影したのも、そんな早朝のこと。
森の木々の間から、太陽の光が射しこみ、
立ち枯れたイタヤカエデの木が照らされ、
それを合図にブナハリタケから飛び立つ虫たち。

ふと気づくと、わきあがる水蒸気。
朝日に光り輝く水の分子の中を飛ぶ虫たちの姿は、
美しくすらあります……。

うわ、うわ、違う!違う!
と、真実を理解したのは、写真を数枚撮ったあと。
水蒸気だと思っていたのは、何と、胞子だったんです。
半円形のブナハリタケの傘の裏から流れ落ち、
太陽の光越しに七色に輝きながら宙をたゆたう胞子……。
この世のものとも思えない光景ですよ、本当に。
しばし、言葉を失いました。

改めて思いますけど、
ニンゲンが目にすることができる風景なんて、
自然の、ほんの一部なんですよね。
逆に言えば、目の前にあるものだけを見て、
自然をわかったような気になってはいけない、
ということです、はい。

やがて、数日後、このブナハリタケは、
オレンジ色も鮮やかな、粘菌(変形菌)の
ブドウフウセンホコリに取りつかれ、
一挙に食べられてしまう運命にあるのですが、
長くなっちゃうので、その話は割愛します。

それにしても、
きのこの傘は、植物で言うところの花であり、
種である胞子をばらまいている、という、
ごく当たり前の事実を目の当たりにしただけで、
こんなにわくわくしてしまうんですから、もう。

きのこも、自然も、本当に素晴らしいですね。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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