アクニオイタケ 食不適
写真と文章/新井文彦

キュートなきのこ、アクニオイタケの出番です。
名前の意味は「悪匂い」ではなく「灰汁匂い」が正解。
ま、普通に考えれば「悪匂い」なんて言わず、
「悪臭」って言いますよねえ(笑)。

しかし、まあ、ひと口に灰汁と言いますが、
灰汁の匂いって、想像できますか?

ワラビやゼンマイなどの山菜は、
食べる前に重曹や灰を溶かした水に漬けて、
苦味や、渋味や、エグ味を抜きます。
いわゆる、灰汁抜きですね。
薄切りにした生のお肉を、熱々のダシ汁に、
しゃぶ、しゃぶ、しゃぶ、とくぐらせると、
みるみる浮いてくる、泡状に凝固した不純物。
これまた、灰汁です。

山菜に含まれる成分も、肉に含まれる成分も、
どちらも、灰汁と言いますが、まったくの別モノ。
そして、そのどちらの灰汁も、
ふと思い出してみると、匂いの記憶が……ありません。
今度、改めて、嗅いでみるとしますか。

で、当の、アクニオイタケなんですが、
傘の肉を潰してみると、匂います、匂います。
アンモニア系、えっと、消毒液系……。
まあ、とにかく、少々刺激的な、
鼻にツンとくる感じの香りがします。
あ、そうだ、突然思い出した!
中学校の保健室の香りだ(笑)。
懐かしく、ちょっと切ない、あの夏の日……。
感傷に浸っている場合ではありませんね。

そう、この、胸がいっぱいになるような香りに加え、
きのこそのものもすごく小さいので、
毒成分はないとしても、食べるには値しません。

食べられなくても、見た目は、超キュート。
傘に入った模様、いわゆる条線も、美しいです。
春から秋にかけて、けっこう長期間見られるので、
針葉樹の倒木、特に、切り株があったら、
チェックしてみてくださいね。
外見が似ているきのこで、
クヌギタケやセンボンクヌギタケがありますが、
匂いを嗅いでみれば、アクニオイタケかどうか、
一発でわかります。

ちなみに、しゃぶしゃぶは、
夏場に焼肉が売れなくなるので、
その対策として考えだされた料理だそうで、
そもそもは、冬の定番料理ではなく、
夏の料理だったとか。

大勢で鍋を囲むとき、
必ず指導的な立場をとる人がいて、
その人のことを、鍋奉行なんて言いますが、
栄養素や旨み成分をも含んでいる灰汁を、
几帳面に取り過ぎてしまう人のことを、
アク代官、と言うとか、言わないとか(笑)。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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