ハナオチバタケ 食不適
写真と文章/新井文彦

秋になり、気温が低くなると、
木々の葉の働きが弱くなります。
最低気温が、8度を下回るようになると、
紅葉が始まるのだとか。
阿寒湖周辺では、例年、9月初めくらいかな。

通常、葉っぱが緑色をしているのは、
光合成のとき、光を吸収する役割を担う、
クロロフィル(葉緑素)によるものですな。

で、葉っぱが赤くなるのは、
アントシアニンという赤い色素によるもの。
寒くなってくると、葉っぱの付け根部分に、
離層という組織がつくられるため、
光合成で作られた糖類などが、
「本体」へ移動できなくなって蓄積され、
そこからアントシアニンが合成される、というわけ。

葉っぱが黄色くなるのは、
寒さで働きが弱まった葉っぱでは、
クロロフィルがどんどん分解されていくため、
もともと含まれていたカロチノイドという黄色い物質が、
緑に代わって目立つようになる、というわけ。

日照時間の減少と、寒さによって、
光合成の効率は悪くなっちゃうし、
水分を吸収する力も弱くなっちゃうし、
木は、名実ともに「冬の時代」へ……。
そこで、窮余の策として、
それまで大車輪の活躍をしていた葉っぱくんを、
水分が蒸発しやすく、維持コストもバカにならない、
という理由で、リストラ!しちまうわけです。
これが、落葉のメカニズム。

ここで、ようやく、今回の主役登場……。
その名も、ハナオチバタケ、です。
アンティークのバザーで売られているような、
ランプシェード風の傘が、何ともたまりませんな。

傘の直径は、大きいものでも、1cmほど。
傘も柄も思った以上に硬いので、
よく噛んでも、口の中に残りそう……。
ゆえに、食不適、です。

柄をつかんで、そっと持ち上げてみると、
根本に、葉っぱが数枚くっついてきます。
そう、ハナオチバタケは、名前のごとく、
落葉を分解するきのこなのです。

阿寒湖周辺では、広葉樹の森、もしくは、
広葉樹と針葉樹が混在している森で見られます。

実は、この、ハナオチバタケ、
傘の色が、ピンクと紫を合わせたような、
そこそこ派手な色をした個体もあるのですが、
阿寒湖周辺では、残念ながら、
黄土色というか、金茶色というか、
この写真のような「褐色バージョン」しか、
お目にかかったことがありません。

ハナオチバタケが見られるようになると、
阿寒の森に生える広葉樹は、日を追うごとに、
赤や黄色に彩られていきます。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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