おしい!食べられるんです!
オオツガタケ 食
写真と文章/新井文彦

山や森ではもちろん、街を歩いている時にも、
意識せずに、つい、きのこを探しだしてしまう……。
これが、きのこ愛好者が言うところの「きのこ目」。
でも、別に、特別な能力ではありません。
要は、きのこに興味があるかないかの問題です。

逆に言うなら、人間の目は、
思っている以上に、何も見てません。
ぼくは、森へ行ったら、きのこしか探してませんから、
草花や昆虫など、森で生きている他の生物は、
おそらく、ほとんど見逃していると思います。
木や岩だって、ある、という認識はしているものの、
しっかり見ることなどほとんどありません。
ほんと、興味あるものしか見てないんですよねえ。

人は、それぞれ、脳みそというフィルターを通して、
目の前にある世界を認識しているわけで、
そう考えると、街や、森や、友達や、恋人も、
本当の本当に、ありのままの姿を見ているのか、
自信が持てなくなっちゃったりします(笑)。
目が、錯覚を起こしたり、「空目」をすることは、
よく言われていることですからねえ……。

七色の虹、なんて言いますけど、虹は、
はっきり七つに分かれているわけでは決してなく、
赤から紫へと連続的に変化しているので、
色の数は無数としか言いようがないわけで。
そうそう、虹が七色だと言い出したのは、
かのニュートンさんですな。

そうかと言って、せっかくきのこを見つけたのに、
それは、本当に、きのこなのか?
存在しているように認識しているけど、
実は脳内でつくり出した幻影ではないのか?
形而上学的に考えたらどうなのか?
とか、哲学的問いに発展しても困りますが(笑)。

さて。
初秋に、雨降りのアカエゾマツの森を歩いていて、
出始めたばかりのオオツガタケを見つけました。
幼菌のときは、まるで菌糸をまとっているような、
白いベールで覆われていることが多々あるんです。

傘は、橙色にも似た綺麗な色をしていて、
雨に濡れずとも、けっこうなぬめりがあります。
柄は、しっかりと中身がつまっていて、味はもちろん、
歯ごたえ、舌ざわりとも優れた、第一級の食菌です。
山と溪谷社『増補改訂新板日本のきのこ』の著者は、
「まろやかな風味はどんな料理にも合うが、
柄の輪切り貝柱風ソテーには特別な味わいがある」
と、大絶賛しております。
柄の輪切り貝柱風ソテーって……(笑)。
見つけたら、皆さま、ぜひ、お試しあれ。

そんなこんなで、最近では、
撮影したくなるようなきのこを見つけると、
周囲との関係性などに想像を巡らせ、
かつ、
きのこの立ち位置から、視線をあちこちに飛ばし、
意識して森を見渡すことが多くなりました。
これから、ぼくの脳みそに、
森の何が上書きされていくのか、楽しみです。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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