これは、食毒不明なんです。
モリノチャワンタケ 食毒不明
写真と文章/新井文彦

我儘なクライアントと気まぐれな上司との板挟みで、
にっちもさっちも行かなくなってしまったとき……。
連日連夜残業しているにもかかわらず、
仕事が減るどころか逆にどんどん増えているとき……。
子どもの成績は落ちるわダンナの給料は下がるわで、
思わず愚痴のひとつも言いたくなったとき……。

「ああ、きのこに会いたい!」
と、思ったことがある方、いらっしゃいますか?
はい、とお答えになったあなた、友達です(笑)。
きのこ好きの間では「菌友」なんて言いますが。

写真家の星野道夫さんは、学生時代、
都会で電車に揺られているときや、
雑踏で人ごみに揉まれているときなどに、
北海道のヒグマが頭をかすめたそうです。
自分が東京で暮らしている同じ瞬間に、
北海道ではヒグマが生きているのだ、と。

オフィスの島形に配置されたデスクの片隅で、
ノートパソコンに向かっているときにも、
そう、遥か遠い阿寒の森では、人知れず、
きのこが菌糸を伸ばしているわけです。
じわじわ、と。

普段、街で暮らしているときでも、
ヒグマやきのこに限らず、
遠くの自然に思いを巡らせるという感覚は、
ぜひぜひ、大切にしていただきたいです、はい。
自然は、ときに、心の支えにもなってくれます。

地球上で暮らしている我々人間を含めた生物は、
みんな同じ時間の中で生きているんですよねえ。

今回は特に、雄大な阿寒の森を彷彿させるような、
超素敵なきのこ写真をお目にかけよう!
と思ったのですが、ちょっとハードルが高いので(笑)、
「森」という名前がついたきのこをご紹介します。

モリノチャワンタケ、です。

あまり馴染みのあるきのこではないと思いますが、
「茶碗」の後ろに伸びている「台座」がキュート!
茶碗、というより、鐘とか砲台のような姿をしてます。

夏から秋にかけて、落葉や落枝の上に発生し、
「茶碗」は、直径3〜5cmくらいで、
縁はレースで飾ったかのように波打ってます。
色は、ちょっぴり薄めの黄褐色系。
肉質はもろく、もし触りたいなら、気をつけないと、
蝋細工のようにぼろぼろ崩れてしまいます。

街で過ごしているとき、森のきのこが恋しくなるのは、
もう、ほとんど、長距離恋愛って感じですね(笑)。
会えない時間に、自分としっかり向き合って、
かつ、いろいろと相手のことを思いやる。
次に会った時の喜びたるや、もう……。

え?今まで自然のきのこなんて見たことないって?
では、まだ見ぬ、大切な人を想像してみてください。
新しい出会い、と考えただけで、どきどき……。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
感想をおくる とじる ツイートする