アミスギタケ 食不適
写真と文章/新井文彦

宇宙ステーションに長期滞在していて、
ようやく地球へ帰還した宇宙飛行士は、
重力のある生活に適応するために、
1か月以上かけてリハビリを行うそうです。

それとは全然レベルが違いますが、
海やプールで長時間泳いだ後などには、
水から上がったまさにその瞬間、
上からぐいっと押されるような力を感じます。
倦怠感ではなく、これ、重力ですよね……。

そう、普段、あまり意識してませんが、
我々は、重力がある場所で暮らしているんです!

かの自然哲学者、サー・アイザック・ニュートンの、
リンゴが木から落ちるのを見て重力を発見した、
という話を聞いたことがある方は多いと思いますが、
実は、この話、多少の誤解を招いているようなんです。
ニュートンは、単に、重力を発見したのではなく、
リンゴに対して働く力は月や惑星に対しても働いている、
つまり、地球に限らず全宇宙で万有引力が働いている、
と着想したことが、そう、すごいんです!

しかし、ねえ、そこのあなた、
木からリンゴが落ちる力と、
太陽と地球が引き合う力が、
実はおんなじなんだと、イメージできますか?
「そ、そんなわけないべさ!」
と、ぼくの本能は大声で叫んでます(笑)。

で、まあ、いつものように唐突なんですけど、
ぼくは「重力」と聞くと、まず、
きのこのことを思い浮かべてしまうんです。

アミスギタケの写真をじっくりご覧あれ。
苦しそう、というか、体勢に無理がある、というか、
木の隙間から下に向かって一度伸びたあと、
ぐぐぐいっと反転して、上を目指しています。

たくさんのきのこを観察しているとわかるのですが、
きのこは、どこからどんな角度で生え始めようが、
最終的には空と地球の中心を意識して伸びて行きます。
つまり、効率的に胞子を散布しようとするなら、
胞子が作られる傘の裏側のヒダや管孔が、
下を向いていたほうがいいに決まってますから。
きのこは重力をしっかり感じているんでしょうねえ。

当のアミスギタケは、夏の間、
主に広葉樹の枯木から発生します。
傘は、まるで革を思わせる、硬い硬い肉質。
真ん中がやや窪み、褐色の鱗片が多数付着してます。
何よりも、裏側の網目模様の美しいこと!
柄の上部にかけての造形は芸術的ですらありますな。
うっとり……。

ちなみに、より正確な意味での重力は、
万有引力と地球の自転による遠心力を合わせたもの。
赤道付近では、遠心力が大きくて重力は小さく、
両極では、遠心力が働かないので重力が大きくなります。
と、いうことは、
例えば、東京で恋に破れたとき、北を目指し、
上野発の夜行列車に乗り込んで雪の青森駅で下りると、
寒さが身にしみるうえに、重力も大きくなり、
身も心もより重くなってしまうという驚愕の事実が……。

職業が宇宙飛行士じゃない人は、
恋に破れたら、身体だけでも少しは軽く感じる、
赤道直下にある国を目指しましょう(笑)!

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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