アシグロホウライタケ 食不適
写真と文章/新井文彦

もう20年以上も昔の話なんですけど、
大学生のとき、一人旅で中国へ行きました。
夏休みに、2か月くらい。

都市から辺境までいろいろまわったのですが、
一番印象に残った場所は、四川省の成都市。
超スペクタクルロマン大河小説『三国志』の主人公、
あの劉備玄徳が建国した、蜀の都だったところです。
(地元では諸葛孔明の人気が圧倒的でした)
麻婆豆腐発祥の地、でもあります。

仲良くなった地元の大学生にガイドしてもらって、
今やユネスコの世界遺産として登録されている、
中国三大霊山の峨眉山やパンダの生息地にも行きました。
成都滞在の最後の最後に、かの学生が、
「シェンシエンに会いに行こう」
と熱心に誘ってくるので、大雨が降っていたけど、
道教の発祥の地として知られる、青城山へ。

シェンシエンを漢字で書くと、神仙。
日本語で言うなら、仙人です、仙人!
想像以上に厳しく険しい山道を何時間も登って、
いざ、ご対面、となるはずだったのに、
仙人が暮らしているという小屋には、弟子のみ。
「いま空を飛んでいてどこにいるかわからない」
と言われました(笑)!!

さて。
仙人の話と、アシグロホウライタケが、
いったいどう関わり合っていくのか、
そろそろ不安に思う人が出てくるかもしれません。
毎度、ご心配をおかけしております、はい。

アシグロホウライタケの名にある、
「蓬莱(ほうらい)」とは、
古代中国でいう仙人が住むという仙境のこと。
(あ、ほら、話がつながった……)
新年の祝儀として床の間に飾ったり、
年賀のお客に出したりする飾り物に、
「蓬莱飾(ほうらいかざり)」ってのがありますが、
これは、仙人が住む蓬莱を模してつくるんです。
落葉から生えるアシグロホウライタケを見ると、
実にシンプルながら、蓬莱飾かくあらんと思えます。
自然の造形は本当に素敵だなあ。

あ、関西の人なら「蓬莱」と聞いて、
まず思い出すのは、豚まんですかね(笑)?

アシグロホウライタケは、
傘の直径が5mm前後の極小きのこ。
枯れた葉っぱや茎から発生します。
柄の根本が黒いから、アシグロ、です。
森の中で、探すのはけっこう大変ですけど、
こんなきのこを見つけたら感動しますよ!

まるで落葉を飾り付けるかのような、
とびっきり小さいきのこ。
かわいくて、食べちゃいたいって?
でも、あまりにも、小さ過ぎます。
我慢、我慢。

人生初の海外旅行だった、中国一人旅では、
深夜の九龍城を命からがら徘徊したり、
全中国超能力者大会で「壁抜け姉妹」に会ったことなど、
抱腹絶倒冒険活劇体験がたくさんあるのですが、
いつか、機会があったら、ご披露します(笑)。

ちなみに「蓬莱」は、新年の季語です。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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