すっくと立っている愛らしいきのこ。
写真で見ると大きさが分かりづらいのが難点ですが、
高さは、およそ1.5cmほど。
これから傘が開きつつ上にも伸びていきますが、
それほど大きくなるきのこではありません。
きのこの名前は、ヒメスギタケ。
スギタケに似ていて小さいので「ヒメ」スギタケです。
名前もかわいい。
このヒメスギタケが生えている場所は、地面ではなく、
川沿いの森の小高い丘で、強烈な存在感を放つ、
ひと抱え以上もある大きなオヒョウ(広葉樹)の倒木です。
この、オヒョウの倒木こそ、
我々隠花植物をこよなく愛する者にとっての、宝の木。
表面をところどころコケや地衣類が覆っているうえ、
春から秋にかけては、いろいろな種類のきのこや粘菌が、
現れては消え、現れては消えるんです。
このオヒョウの木は、
いつ生まれて、いつ倒れたんでしょう?
厳しい気象条件の阿寒の森で直径1m超の太さになるには、
いったい、何年、何百年の月日を要したのでしょう?
そして、倒れてなお、他の生物の糧になっている……。
自然のシステムは本当にすごいですねえ。
自分を構成していた原子が別の生物に取り込まれ、
やがてその生物の一部が、また別の命に取り込まれして、
生命を構成する原子は、姿を変え形を変え、
この地球上をぐるぐる回っている、と考えると、
動物や、植物や、菌類だけではなく、
ミミズだってオケラだってアメンボだって、
どんな小さな命にも敬意を払わなくては、と思うわけです。
ヒメスギタケを見つめつつ、
そんなことを考えていると、虫刺されだらけ。
う〜む、やっぱり、吸血昆虫は、憎い!
きのこ観察は、科学であり、哲学であり、
精神修行でもありますな……(笑)。
さて、ヒメスギタケですが、夏から秋に見られます。
特徴は、何といっても、きのこ全体を覆うササクレ。
まるで毛糸かフェルトでできているかのよう。
専門的には「鱗片」と言うのですが、
最初はトゲトゲで、やがてツブツブ状に。
傘は最初半球状で、だんだん開いていきます。
柄にはけっこう取れやすいツバがあり、
そこから下には傘と同じく密に鱗片があります。
見た目からしてカサカサしている感じだし、
きのこそのものもすごく小さいし、
おまけに食毒も詳しくはわかっていないし、
このきのこは鑑賞第一、としましょう。
実は、ヒメスギタケは、
スギタケ属ではなく、ヒメスギタケ属。
ヒメスギタケ属は、ヒメスギタケのみが属する、
一属一種、であります。 |