おしい!食べられるんです!
カバイロツルタケ 食
写真と文章/新井文彦

「北海道の木」として制定されているのは、
クロエゾマツとアカエゾマツ両方という意味のエゾマツ。
阿寒湖周辺では、もちろん2種とも見られるのですが、
雌阿寒岳周辺に広がるアカエゾマツの森は、
高さ30m以上、幹の直径1m以上もある巨木が群生。
そりゃあ見事なものです。

アカエゾマツのすごいところは、
酸性の強い土地、火山灰の土壌、
溶岩上で土壌が薄くなっているところ、
ちょろちょろ水が流れるような湿地、
乾燥地、亜高山帯などなど、
他の樹木ではまず無理というような、
超過酷な環境に耐えて生育できること。

ところが、成長がとても遅いんです。
幹の太さが直径5cmになるのに、
150年かかったという記録もあるほど。
これじゃあ他の樹木との間で繰り広げられる、
森の生存競争に勝ち目がないってんで、
他の樹木が生きていけないような、
過酷な環境に進出していって現在に至るというわけ。

今なお活発な火山活動を続ける雌阿寒岳の、
溶岩や火山灰におおわれていた荒涼とした大地が、
現在、こんなにも豊かな森になったのは、
M的とも言えるアカエゾマツのおかげでもあるんです!

そんなアカエゾマツに感謝しつつ、
ぼくは足下のきのこを探しまわるわけで(笑)。

雌阿寒岳の西部に広がるアカエゾマツの森。
コケや赤い実をつけたゴゼンタチバナの間から、
かわいらしい幼菌が顔を出しています。
ショウゲンジです。

この、きのこらしからぬ名前は、
漢字で書くと、正源寺。
正源寺というお寺のお坊さんが初めて食べ、
それから地元の人々も食べるようになった、
という説は前々から知っていたのですが、
改めて調べてみると「ウィキペディア」には、
長野県飯田地方の方言名をそのまま採用した、
とありました。

阿寒湖周辺では、ショウゲンジは、
夏から秋にかけてアカエゾマツの森で見られます。

放射状のしわしわを持つ傘は、
幼菌時の卵形から徐々に平らに開いていき、
湿っている時には、まれに粘性があることも。
色は黄土色っぽいんですけど、たまに、
なんとなく紫がかったものも見られます。
柄は中実で傘よりも淡い感じの色合い。
真ん中あたりにしっかりとしたツバがあります。
(ツバは成長するにつれ落ちてしまいます)

特に柄は、しまっていて歯ごたえがよく、
爽やか、かつ、とても上品なお味。
山と溪谷社『日本にきのこ』増補改訂新版には、
「白身魚のエスカベーシュやパエリアなどにも楽しめる」
とありますが、エスカベーシュって……。
相変わらずマニアックな料理法記述だなあ(笑)。
まあ、とにかく、おいしいきのこです、はい。

高校生の頃、好きなアーチストが使用していて、
欲しかったけど高くてとても手が出なかった、
ヤマハのアコースティック・ギターの表板には、
アカエゾマツが使われていたと記憶しています。
いま、アカエゾマツの森を歩くと、
あの頃の甘酸っぱい思い出が……。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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