正解、食べられます!
ヌメリササタケ 食
写真と文章/新井文彦

時々思うことがあります。
現在自分の目に見えている以外の世の中は、
果たして本当に存在しているのだろうか?
と。

いま、原稿を書いているMacBook Proや、
仕事部屋を占拠している大量の本や、
二階のベランダから見える街並みが、
存在しているだろうことは、何となく、
リアルタイムで見ているので信じられます。

でも、実際に自分がいる場所以外の、
東京や、弘前や、ブリスベンが、この同じ瞬間に、
存在している証拠って、実は、ありませんよね?
お〜い、みんな、いまどうしてる?
そこに、ほんとに、いる?

阿寒の森をきょろきょろうろうろ歩いている時、
ふとフェイントをかけて急に後ろを振り返っても、
ちゃんと森は存在してます(笑)。

もし、誰か〜例えば神さま〜が、
ぼくが見るほんの少し前に、
記憶ともども世界をつくっているとしたら、
見事というしかありません(笑)。
ぼくの不意打ちもなんのその、です。

それはさておき、
ぼくの目の前にば〜んと広がっている光景は、
人類でぼくだけした見たことがないんです!
もしかしたら、ぼくだけのためにつくられている?
考えてみるとすごいでしょ?

雌阿寒岳山麓のアカエゾマツの森の奥で、
コケや地衣類の間から生えているこのヌメリササタケも、
人類でぼくがただ一人だけ見たきのこってわけです(笑)。

夏から秋にかけて、阿寒のアカエゾマツの森で、
いかにもきのこという形をしていて、
茶褐色系の傘が思いっきりぬるぬるしていて、
柄が薄い紫色で、地面から生えているきのこがあったら、
ヌメリササタケで、まず間違いないでしょう。
大きなもので傘の直径が10cmくらいになります。

阿寒では、ほぼ針葉樹の森で見られるのですが、
図鑑によると広葉樹林でも発生するとのこと。

野趣あふれるナメコ、という感じで、
上品なお味の、なかなか優秀な食菌です。
よく似たアブラシメジというきのこがあるのですが、
こちらも同じように食べられます。

ヌメリササタケやナメコを料理する場合には、
「ぬめぬめ」「ぬるぬる」を生かしましょう、
とよく言うのですが、外国の方は、この、
「ぬめぬめ」「ぬるぬる」が苦手だったりしますな。
外国の料理で、ぬめぬるねばねば系って、
そう言えば、あまりお目にかかりませんものねえ。

きのこのぬめりは、虫などから子実体を守るため、
という説があるのですが、そう考えると、
きのこのぬめぬるを料理に生かすということは、
きのこのぬめぬるに付着した、
虫やらゴミやら何やら「森の調味料」を加味すること!
野生のきのこを食べるには、
それなりの覚悟が必要だってことですな(笑)。

ヌメリササタケ入りの味噌汁をすすりながら、
ふと、目を閉じて、森を想う……。
どうやら、ぼくの心の中には、
阿寒の森は確実に存在しているのでした。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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