おしい!食べられるんです!
ヤマドリタケモドキ
食
写真と文章/新井文彦

写真の初心者は、この写真のように、
被写体を真ん中に配置して、パシャリ、と、
シャッターを押すケースが多く見受けられます。

ま、当然ですよね。
写真を撮影すべく、ファインダーや液晶画面を見れば、
ピントの合う部分は真ん中に配置されているわけだし、
そもそも撮影したいと思ったものを中心に置くのは、
ごくごく自然なふるまいです。

ちょっと写真歴が長い人や、
『柴犬でもわかる写真上達入門』的な本では、
それを「日の丸構図」などと呼び、
できるだけ避けたほうがいい構図、としてるようです。

今回ご紹介するきのこ写真を、改めてご覧あれ……。
紛れも無い日の丸構図でございます(笑)。

深い森の一角に凛と佇むけっこう大型のきのこ。
シックな焦茶色で、やや湿っていて光沢があり、
風無き時は自ら気流を起こして胞子を拡散させるような、
物理的にも芸術的にも美しく調和した形の傘。
裏は一点の汚れもなく平和を象徴するかのような白。
一方、支える柄には世界の混沌を引き受けたような、
白く盛り上がった複雑な網目模様……。
か、完璧なきのこです。

腹ばいになり、三脚から外したカメラを、
ビーズでいっぱいにした洗濯ネットの上に置いて固定。
ファインダーをのぞき込みます。
見えるのは、神々しいまでのオーラをまとったきのこ!
三流きのこ写真家が太刀打ちできるものではありません。

ハートを射止めるがごとく、
きのこをファインダーの中心に置き、
シャッター、シャッター、シャッター。
はい、日の丸構図写真の出来上がり……。

何を隠そう、このきのここそ、
世界に名だたるトリュフと並ぶ、
きのこ界の大スター・ヤマドリタケ!
の仲間で、ヤマドリタケモドキ、です(笑)。

夏から秋にかけて、主に広葉樹林に発生しますが、
阿寒では、針広混交林でも見られます。
大きなものでは傘の直径が20cm以上に。
ものすごく形状や色に個体差があるきのこですが、
写真のきのこをヤマドリタケモドキとしたのは、
柄全体に白い網目模様があること、
触ったり傷つけたとき変色しないこと、
そして、いわゆる、経験値です、はい。

ヤマドリタケと比べてしまえば、
肉質がぼそぼそしていて香りもやや乏しいのですが、
そりゃあ、比べる相手が悪いだけ。
和洋中どんな料理にもあう一級品の美味きのこです。

日の丸構図って、
無意識のうちに撮っている場合が多いですけど、
決して全部が全部悪いわけではありません。
意識して日の丸構図で撮影することで、
被写体を強調した素敵な写真が撮れる場合だって、
もちろんたくさんあると思います。

まずは、自由に写真を撮りましょう。
大地に生えるきのこのように。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
感想をおくる とじる ツイートする