ツチカブリ
食不適
写真と文章/新井文彦

林道や遊歩道からちょっと外れて、
阿寒の森の奥へと歩みを進めていくと、
別世界に迷い込んだような錯覚に陥ることがあります。
ふと立ち止まって、ぐるりと360度見渡しても、
人間がつくったものが、ひとつもないんですよ!

目の前に広がるのは、トドマツと広葉樹の森。
聞こえるのは、鳥の囀りや木々のざわめき。
カメラバッグを下し、倒木に腰掛けて、ふうっと深呼吸。
とっておきの豆をカリカリと砕いてコーヒーを淹れ、
しばし、ぼ〜っとする幸せ……。

ところが、ふと我に返ると、
ぼ〜っとしていたどころか、実は、
なけなしの脳みそフル回転で、
いろいろなことを考えていたりするんですね。

我らが菌類、きのこは、
こんな倒木を養分にしてどんどん成長しつつ、
有機物だった生物を無機物に分解するという、
重要な働きもしているわけですよ。

きのこがつくり出した無機物が、
他の生物の命を支えている、と思うと、
きのこの偉大さを賛美せずにはいられません(笑)。
命の「種」は、絶えずして、地球のみならず、
宇宙をぐるぐる巡回しているのかも……。

コーヒーを飲み終わって森歩きを再開してからも、
そんなことをつらつら考えていると、
白くて大きなきのこの群生を見つけました。
なんと、その真ん中に鎮座するのは、
推定2歳くらいの若い牡シカの頭骨!

きのこの名前は、ツチカブリ。
もう3、4日早く出会いたかったなあ……。

ツチカブリは、夏から秋にかけて、
広葉樹の森や、各種マツの森の地上から発生。
よく見ると傘の表面は細かい毛でおおわれていて、
黄土色っぽいシミが見られることもしばしばです。
傘の直径が20cmを超える大きな個体も、
決して珍しくありません。

実は、
ツチカブリモドキ、
シロハツ、シロハツモドキ、
ケシロハツ、ケシロハツモドキ、
といった、同じような時期に発生する、
白くてやや大き目のそっくりなきのこがあり、
これらを見分けるのは、なかなか大変なんです。

ツチカブリを見分ける方法としては、
まず、ヒダや柄に傷をつけてみます。
裂いたり、切ったりしてもオーケー。
で、白い乳液が出たら、
シロハツと、シロハツモドキは、該当外。
その乳液が、白からクリーム色に変色したら、
ケシロハツ、ケシロハツモドキってこと。
乳液が白いままだったら、
ツチカブリか、ツチカブリモドキ。
そして、最終判断は、ヒダの密度で。
ヒダが疎なのがツチカブリモドキ、
密なのがツチカブリ、というわけ。
ふう。

シロハツモドキは毒きのこだし、
ツチカブリ、ツチカブリモドキ、
ケシロハツ、ケシロハツモドキの乳液は、
なめてみると思いっきり辛い!
つまり、この手の白くて大きなきのこは、
食用的な価値はほぼありません。

死んだらきのこに分解されるのが望みだという、
超きのこマニアの少し変わった友人がいるのですが、
この写真の状況も、よし、とするかもしれません(笑)。
え?ぼくですか?
ぼくは、死んだ後のことは、どうでもいいです。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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