コツブヒメヒガサヒトヨタケ
食不適
写真と文章/新井文彦

せいぜい20年くらいしか生きられないから、
犬や猫は人間に比べてかわいそう、
といった意味のことをたまに耳にするのですが、
果たして、本当にそうでしょうか?

本川達雄著『ゾウの時間ネズミの時間』によると、
哺乳類ならば、体の大きさを問わず、どんな動物であれ、
すうはあすうはあ、という呼吸の数は一生で約5億回、
どきんどきん、という心臓の鼓動は一生で約20億回、
と、ほぼ数値が決まっているそうです。

2〜3年しか生きられないハツカネズミ、
70年くらい生きるインドゾウ、どちらも同じく、
5億回呼吸をして、20億回心臓を打つ時間が寿命……。
つまり、種によって「時間」の早さが異なるわけです。

きっと、地球上で生きているすべての生命に、
その種にぴったりの時間や空間があって、
たとえ同じ地球で同じ時代に生きているとしても、
人間とは違った次元時空を生きているに違いない、
などと考えると、ちょっとワクワクします(笑)。

そう、人間に比べて生きている時間が短いからといって、
他の生物がかわいそうだといえる要素はありません。
そう、かわいそう、というのは、
飼っていた犬や猫を失った人のことですよね。

さて。
秋の初めに、阿寒川沿いの森で、
一夜で生まれ、一夜で消える、ヒトヨタケの仲間、
コツブヒメヒガサヒトヨタケを見つけました。

こんな感じで生えていたので、
その傘の凹凸ぶりを見て、もしや!と思い、
小さいカメラを地面に直置きして、
傘の裏を撮影したらビンゴ!

傘裏のヒダの造形というか乱れっぷりが、
ほんと、たまりませんよねえ……。
胞子が熟成すると色が黒くなるため、
傘の裏は徐々に黒っぽく変色していきます。
むふふふ。

実は、このきのこ、
以前にも登場させておりまして、
そのときにも書いているのですが、
ヒメヒガサヒトヨタケというきのこと、
ほんと、そっくりなんです。

コツブヒメヒガサヒトヨタケは、傘の直径2〜3cm、
ヒメヒガサヒトヨタケは、傘の直径1.5〜2.5cm
とあり「小粒」という名前の方が大きいのですが、
顕微鏡で胞子を確認すると、名前の通り、
コツブヒメヒガサヒトヨタケの方が「小粒」とのこと。

傘や柄など、外観が似ていることはもちろん、
春から秋にかけて発生するとか、
ヒトヨタケの仲間なのに液状化しにくいとか、
見られる特徴もほぼ同じ……。
肉眼では、まず、分類できません!

それなのに、このきのこを、
コツブヒメヒガサヒトヨタケとした根拠は……?
前回同様、山と溪谷社『日本のきのこ』に、
ヒメヒガサヒトヨタケの方が里に多く発生する、
とあるからです……。
あしからず。

小さいし、外観的にもイマイチだし、
大量採取も見込めないし、
まあ、食用にはまったく向きません。

ヒトヨタケの仲間だからといって、
寿命がわずか一夜、というわけではありません。
きのこの本体は、子実体ではなく、地中にうごめく菌糸。
それが果たしてどのくらいの時間を生きているのかは、
菌のみぞ知る、です。
きのこにはきのこの時間が流れているんでしょうね。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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