ヒメカバイロタケ
食不適
写真と文章/新井文彦

針葉樹の森、と聞いて、
一般の方が真っ先に思い浮かべるのは、
スギやヒノキなどの人工林かもしれません。
薄暗くてじめっとしている印象なので、
きのこがたくさん見られると思いきや、
本当に少ないんですね、これが。

スギの木のことをちょっと考えただけでも、
目がしばしば、鼻がむずむず、喉がいらいら、
アタマの芯がボ〜ッとしてくる、という、
スギ憎し!ヒノキ恨めし!
な、花粉症の方もいらっしゃるでしょうねえ……。

目や鼻や喉を、ぱかっと取り外して、
きれいさっぱり洗えたらどんなに気持ちがいいだろう、
と重度のスギ花粉症を患っている友人たちが、
花粉の舞う季節になる度に申しております。
ほんと、ご愁傷さまでございます。

へ〜っくしょい!
へ〜っくしょい!
あれあれ、もしかしたら、ぼくも……。

スギやヒノキでつくられた湯船に入るのは、
お風呂好きの楽しみのひとつですが、
何とも言えない、いい香りがしますよね。
その香りの成分が木材を腐りにくくしている、
つまり、きのこなど菌類に耐性があるってこと。
普通、湿った木があれば、
すぐにカビやきのこが生えてきますからねえ……。

実は、北海道にはスギが生えてません。
同じ針葉樹でも、マツは、腐りやすい。
そう、きのこがたくさん発生します。
阿寒湖周辺のトドマツやアカエゾマツの森へ行けば、
随所に朽木や倒木が見られますが、それは、
きのこ好きにとっては、とびっきりの宝物です。

土のようにも見える苔むしたトドマツの倒木に、
鮮やかな色をした小さなきのこがたくさん!
ヒメカバイロタケです。

夏のはじめから秋本番まで、
けっこう長い期間にわたって発生するので、
森のどこかで必ず目にするきのこです。
腐朽の進んだ針葉樹を好みます。

傘は、直径2cm足らず、柄の長さも1〜3cm。
その名のとおり、小さくて、
樺色というか黄色味を帯びた橙色。
傘が開いてくると真ん中がぽこりと凹む場合も。

そして、そして、
このきのこの魅力は、何といっても傘裏のヒダ。
多少まばらながら、柄の下側へと伸びた、
その造形の美しさときたら……。
一度にたくさん生えるので見応えがあります。

毒成分は含まれてないようですが、
小さく薄くやや硬い傘を手にとってみれば、
食用には向かないだろうことは、
想像に難くありません。
大量採取は可能でしょうけど……。

ま、このきのこは、見て楽しむことにしましょう。

考えてみれば、スギやヒノキの人工林は、
木材供給のために整えられた、いわば、木の畑。
限られた樹木を作物として育てているのですから、
他の生物の生育は最小限で抑えたいわけで。
多少殺風景に見えるのは当たり前かもしれません。

と、いうか、きのこがあまり見られない場所は、
どこもかしこも殺風景に見えてしまう、という、
ある種、きのこ好きの性かもしれません(笑)。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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