アカチシオタケ
食不適
写真と文章/新井文彦

本物のきのこが見たいけど探し方がわからない、
というような質問をよくいただきます。
実は、ぼくも、よくわかりません!

と、いうのも、
ぼくの撮影領域である北海道の阿寒湖周辺では、
夏から秋の間であれば、超がつくような初心者でも、
近くの森へ出かけて5分も歩きまわってみれば、
何も苦労もなくきのこを見つけることができるので、
コツもへったくれもないんですよ……。

ぼくは、森へ入ったら、
度々、歩くのをやめて立ち止まります。
じっくりと周囲を見渡すことができますよね。
そして、しゃがんでみる。

ほんの1mくらい視線が下がっただけなのに、
目の前にはまったく違った景色が広がります。

そして、最後は、腹ばいに!
しゃがんでいた時よりも、
さらに劇的に風景が変化します。
目の前、というか、ほんの鼻先に、
葉っぱや、コケや、松ぼっくりや、土が……。
ちょっと湿ったようなカビ臭いような香りがしますが、
これが、嫌な匂いじゃないんですよね。

で、ゆっくり、視線を、右に……、左に……。

今まで見えなかった森の姿が見えてきます。
それが、きのこが住んでいる世界。
立っていたのと同じ場所なのに、ほんと、別世界です。
きのこの「目線」に近づけば近づくほど、
きっときのこも探しやすくなるのではないかと思います。

さて。
今回ご紹介するきのこは、アカチシオタケです。
ぼくは、気に入った場所があれば、
腹ばいにならずにはいられないのですが(笑)、
この写真を撮影したのは、阿寒ではなく、東北地方。
青森県は奥入瀬渓流沿いの森です。
しゃがんだときに見つけ、腹ばいになって撮影しました!

アカチシオタケは、秋、
ブナなど広葉樹の倒木、またはその周囲の落葉から発生。
橙、朱、紅、黄、を混ぜたような、
目に鮮やかなすっと伸びる柄が、とても印象的です。

傘は、円錐形から平らに開き、直径1〜2.5cmくらい。
やや褐色を帯びた白灰色系で、中央部が橙褐色。
周縁部にははっきりした条線が見られます。

チシオタケと同じく、
傷つけるとまるで血潮が滲み出るように、
じわじわと液体が分泌されます。

チシオタケの分泌物は、その名の通り、
本当に血のような色をしているのですが、
アカチシオタケの「血」はどちらかというと橙色。
外観も異なるので両者を間違えることはないでしょう。

高さ10cmくらいで、細くて小さいし、
まとまった収穫は期待できないし、
更には、おどろおどろしい橙色の液を分泌するし、
言うまでもなく、食べるには値せず、です。

ひょいと傘をつまみ、
ナイフでスパッと切るなどして傷をつけて、
血潮が滲んでくるのを観察するのが定番なのですが、
ついつい罪悪感にさいなまれてしまうんですよね。
ごめん、チシオタケの仲間たち。

実は、腹ばいになるという行為は、
街ではなかなか大変なのではないかと。
公園や庭園の遊歩道で寝そべっていたら、
他の人の迷惑になるのは間違いないし、
寝そべるその姿は、間違いなく不審人物。
くれぐれもお気をつけあそばせ。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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