フクロツチガキ
食不適
写真と文章/新井文彦

ツチグリとツチガキの違いは何か?
何となく、気になっていたのですが、
改めて調べてみると、埒が明きません。

ツチグリは、以前、ご紹介しました。
今回ご紹介するきのこは、フクロツチガキです。
見ればすぐにわかるように、この2種は、
似ているものの歴然とした違いがあります。

ツチグリは、めくれている外皮の内側に、
ひび割れたような模様があります。
一方のフクロツチガキは、つるつるした感じ。
同定材料は、これだけでもオーケーじゃん、
と言いたくなりますが、現実は、複雑怪奇。

両者とも、まるでミカンのように、
球状の「本体」を外皮が覆った形をしていますが、
分類的に、ちょっとだけ違います。

正確を期すなら、ツチグリの分類は、
真核生物ドメイン菌界担子菌門ハラタケ亜門ハラタケ綱、
イグチ目ディプロシスチジア科。
難しい漢字と、訳のわからん横文字が……(笑)。
一方、フクロツチガキは、
真核生物ドメイン菌界担子菌門ハラタケ亜門ハラタケ綱、
と、ここまではツチグリと同じで、この先が、
ヒメツチグリ目ヒメツチグリ科。

なんと、ツチグリ、という名前的に王道の方が、
分類ではツチグリの「ツ」の字もないという……。

さらに、厄介なのは、
ヒメツチグリ目ヒメツチグリ科という分類に、
ヒメツチグリ、シロツチガキ、
エリマキツチグリ、ヒナツチガキ、などなど、
「グリ」と「ガキ」が入り乱れているわけで。
しかも、だいたいみんな、同じような形。

命名責任者出てこい!

と、思わず叫びたくなっちゃいます(笑)。
ですから、この仲間で、ぼくが区別できるのは、
めくれた外皮の内側にひび割れチェック模様がある、
「ノーマル」ツチグリただひとつ!
あとは、ツチグリだかツチガキだかわからないので、
もし、名前を調べる必要があるなら、
その都度、図鑑などで調べます。

さてさて。
当のフクロツチガキの話に移りましょう。
まん丸い幼菌は、淡い褐色で、直径2〜3cmくらい。
阿寒では、夏の盛りに、トドマツの森で見かけます。
成長するにつれ、外皮が5〜7片に裂け、星形に。
袋状の内皮がむき出しになります。

幼菌時、袋の中身は、ぷりぷりぱんぱん。
弾力があって実がしっかり詰まった感じ。
成熟して外皮が裂ける頃には、それが粉状に。
そう、袋の中に詰まっているのは、胞子です。

雨粒が当たったり、虫や動物が接触すると、
先端に穴が空いた円錐形の内皮頭頂部から、
ぶは〜と胞子を噴出するというわけ。
惚れ惚れするような子孫繁栄システム!

そんなこんなで、食不適。
地上に舞い降りた小さな星は、
眺めて、愛でるべし。

ちなみに、成熟した後、
湿度を感じて外皮を開閉するのはツチグリのみ。
その他、ヒメツチグリ系の奴らは、
成熟して外皮が開いたら開きっぱなしです。

このフクロツチガキくん、
形的にも、胞子散布システム的にも、
ホコリタケ系きのこに似ていますけど、
最近の分子系統解析によるならば、
スッポンタケウスタケの仲間に近いのだとか。

人も、きのこも、
見た目だけでは判断できませんな、はい。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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