不正解、食べられます!
タヌキノチャブクロ
食
写真と文章/新井文彦

世の中には、高い場所が怖い人がいます。
いわゆる、高所恐怖症、ですな。
狭い場所が怖い人は、閉所恐怖症。
先端が尖った物が怖いのは、先端恐怖症。

内田百フの『蜻蛉玉』というエッセイには、
小さくて丸いものを恐れるL君が登場します。
百フ先生宅の小さな蜻蛉玉を見つけて悲鳴!

 「丸いものはいけませんか」
 と私は念のため聞いてみた。
 「いけませんねえ、特に小さなやつがいかんです」
 とL君がいやな顔をして云った。
 (中略)
 「憚りに入れるナフタリンの球はどうです」
 「いけませんねえ」
 「蜜柑玉のお菓子はどうです」
 「駄目です」
 「土瓶の蓋の摘みはどうです」
 「止してください」

正確に引用しようと、
本棚の奥から全集を引っ張りだして、
(福武書店刊 新輯 内田百フ全集 第2巻)
該当箇所を調べているうちに……。
……、……。
あ、いけない、いけない、
ついつい読み込んでしまう文章の魔力(笑)。
内田百フを未読の方は、ぜひぜひお読みあれ。
小説も、エッセイも、何もかも、超オススメです。

それはさておき。
球体恐怖症?の人が見たら、
生きた心地がしないシーンに遭遇!
渓流脇のかなり朽ちた倒木から発生した、
丸くて小さい、きのこ、きのこ、きのこ……。
タヌキノチャブクロです。

夏から秋にかけて主に倒木から発生。
直径2〜4cmくらい、高さは3〜5cmくらい。
丸いものの他に、コマ形、洋梨形なども見られます。
はじめは白く、成長するとともに、黄褐色に。
つるつるのように見えて、実は、ざらざらですが、
成熟するにつれて剥落していきます。
(以前ご紹介した時の写真は、こちらを)

幼菌の時は、ぷりぷりの触り心地。
やがて内側に粉状の胞子を形成し、
降雨や動物の接触など外部からの刺激によって、
頭頂部に空いた穴から、ぶはぶはと放出します。
さすが、ホコリタケの仲間ですな。

食べられるのは、ぷりぷりした幼菌の時のみ。
割ってみて内側が暗緑に色づいていたら不可です。
きのこそのものにあまり味はありませんが、
鍋に入れたり、煮込んだりすると、
ふわふわ、ぷりぷり状態のきのこが汁を吸い込み、
素晴らしい存在感を主張します。

ちなみに、
タヌキノチャブクロなどホコリタケの仲間は、
もともと腹菌類に分類されていたのですが、
DNA情報を活用した新しい分類体系では、
「腹菌類」というグループが無くなったので、
今では、あのマッシュルームと同じ、
ハラタケ目ハラタケ科に属すとされています。

最後の最後ですけど。
ぼくは、きのこの同定にまったく自信がないので、
もしかしたら、この写真のきのこたち、
ホコリタケの可能性も……。
あしからず。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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