コウバイタケ
食不適
写真と文章/新井文彦

いかに可愛らしく、いかに美しく、
コウバイタケを撮ることができるか……。
毎年、毎年、挑んでは反省する、の繰り返しで、
未だに、これだ!という写真をモノにできません。
それゆえ、撮影するのが、面白くて、面白くて。

コウバイタケは、傘の直径は、5〜8mmくらい、
高さはせいぜい5cmくらいの小さくて華奢なきのこ。
これが、実に、長い期間にわたって発生するんです。
6月下旬くらいから、10月中旬くらいまで、
発生して、消えて、発生して、消えて、の繰り返し。
ひと月に1〜2度くらい出会うチャンスがあります。

撮影に適した「旬」は、傘が開いてから、
せいぜい3〜4日くらいなので、
長い期間にわたって発生するとはいえ、
ベストタイミングの個体と出会えるかは、
ほんと、運次第、という感じです。

それにしても、楚々とした、可憐なきのこです。
はっきり言って、このきのこを目の前にして、
食べる、食べないを考えるなんて、不遜です(笑)。
食不適、というより、食不当と言うべきかと……。

コウバイタケが生えている場所のひとつは、
「コケコケの森」と呼んでいるトドマツの原生林で、
100平方メートルくらいの広さにわたって、
林床がびっしりコケに覆われています。

以前、コケに詳しい方をお連れしたときに聞いたら、
この一画だけで、少なくても27種類のコケがあるとか。
コケになるべく負担をかけないよう、
そっと歩くように心がけていますが、
多少、自責の念に駆られてしまいます……。
コケさん、ごめん、踏みつけて。

考えてみれば、
遊歩道も何もない原生林に立ち入るということは、
ダメージとは言わないまでも、何か、必ず、
自然にインパクトを与えているってことですよね。

ブラジルで1匹の蝶が羽ばたくと、
テキサスで竜巻が起こる……。

そう、ほんのわずかな変化が、
徐々に大きな現象に変わっていくことを指す、
「バタフライ効果」という言葉があります。
日本で言う、風が吹けば桶屋が儲かる、ってのも、
ほぼ同じような内容かもしれませんが(笑)、
とにかく、
ぼくが、阿寒の森で、知らず知らずのうちに、
草花1本折るのも、小さな昆虫1匹殺すのも、
地球を滅亡させるきっかけになっちゃう!
とまでは思いませんが(笑)、
自然の森の中で動きまわるということは、
自然のいろいろな物事を撹乱させている、
と、いつも自覚していたいと思っています。

コウバイタケって、ちょっと触っただけで、
すぐにポキリと折れちゃうんです。
だから、写真を撮影するとき、
ちょっと曲がっているのを直したいなあ、
と思っても、そのまま、我慢、我慢。

そんな、小さくて弱くて繊細な自然があれば、
思い切り蹴飛ばしたところでびくともしない、
樹齢を重ねた太くて大きくて頑丈なトドマツも、
計り知れない力を持った台風や地震も自然。
そして、日頃は、すっかり忘れていますけど、
人間だって、自然。

う〜む、自然は、奥が深いなあ……。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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