サナギタケ(冬虫夏草)
食不適
写真と文章/新井文彦

雄阿寒岳の麓に広がるトドマツの森のほんの一画に、
ぼくが、勝手に「コケコケの森」と呼んでいる、
林床が一面びっしりとコケに覆われた場所があります。

ここは、以前ご紹介した、
コウバイタケとか、オウバイタケとか、
小さくてかわいい可憐なきのこがたくさん見られる、
あまり人には教えたくない秘密の場所。
もう、たまりません。

実は「コケコケの森」と呼んではいますが、
コケ以外にも、きのこなど菌類はもちろん、
シダの仲間や、地衣類や、粘菌などなど、
ぼくが大好きな、日陰的植物系(笑)、
いわゆる隠花(いんか)植物の宝庫なんです。

隠花植物というのは、その昔、生物の分類が、
動物と植物の大きく2つに分けられていた時代の、
花が咲かない(胞子で増える)植物の総称です。
つまり、花が隠れている、という意味。

「隠花植物」という呼び名は、
生物の研究がどんどん進んで、
分類がどんどん多様化・複雑化していくなかで、
生物学的用語としてはほとんど死語ですが、
ぼくは、なぜか、
隠花植物としてくくられた「植物」群にも、
隠花植物という言葉にもすごく惹かれるんです。

そんなコケコケの森を、いつものように、
多種多様な緑にうっとりしながら歩いていると、
「きのこ目」センサーが、ピピピと反応。
オレンジの物体を捉えました。

近づくと、ひと目で、
冬虫夏草のサナギタケだとわかりました。
この写真だと少しわかりづらいかもしれませんが、
きのこの下に黒いサナギが写っています。

冬虫夏草のきのこ部分(子実体)は、
ストローマと呼ばれ、粒々型と粉々型があるのですが、
サナギタケを見ると、ツブツブツブツブ……。
きのこっぽくない形をした小さなきのこを見つけたとき、
子実体の上部にツブツブがたくさんあったら、
ほぼ冬虫夏草だと思ってもいいのではないかと。

サナギタケは、主に、夏から秋にかけて、
浅い地中に埋まったガのサナギから発生しているのを
けっこうよく見かけます。

コルジセピンという薬効成分を含んでいるので、
食不適なのですが、漢方薬でよく使われるとか。

それにしても、コケコケの森、いいでしょ。
あ、そうか、隠花植物がたくさん見られるのだから、
「隠花の森」と呼べばいいのか(笑)!

ちなみに、以前ご紹介したサナギタケは、
どうぞこちらをご覧あれ。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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