もしかしたら、この写真を目にした時、
縦横が間違っている!と思った方がいるかもしれません。
だって、きのこ、真横に伸びていますからねえ……。
でも、背景の木々を見ていただくと、
写真は横位置のままで正しいことがわかります。
このドクヤマドリが生えていたのは、
阿寒湖へと落ち込んでいるやや急な斜面の途中。
足場をしっかり確保して、寝そべって撮影しました。
ただし、たとえ阿寒湖に落ちたとしても、
怪我をするような場所ではありません。
どうぞ、ご安心を。
実は、真横に伸びるきのこは、
特に珍しいわけではありません。
柄を持つきのこの多くは、
最初、光に向かって伸びていき、
成熟すると重力に逆らう方向に伸びるんです。
きのこ(子実体)が、
真っ暗な地中や倒木の中から姿を現すのは、
探検のためでも自己PRをするためでもなく、
ましてや人間や動物に食べられるためでもなく、
もちろん、命を次世代へと伝えるべく、
胞子をつくって放出するため。
より効率的に胞子を放出・散布するには、
大宇宙をも支配する重力の力を借りるのがいちばん。
胞子生産工場とも言うべき傘の裏側が、
重力の方向=下=を向いているのがベストです。
ここで、改めて写真をじっくり見ていただくと、
先端の傘の部分が多少上を向きつつあると、
お気づきになりますよね。
そう、このドクヤマドリくんは、
そろそろ成熟しつつあるので、
世界へ向けて胞子をポンポンと放出すべく、
伸びる方向をぐいっと90度変えて、
傘を真上に向けはじめたところだったんですねえ……。
そんな、ちょっぴり健気な感じがしないでもない、
ドクヤマドリくんは、その名の通り、毒きのこ。
誤食すると、嘔吐、腹痛、下痢など、
胃腸系の中毒を引き起こします。
夏から秋にかけて、
亜高山帯の針葉樹林の地面から発生。
傘は黄褐色で、ビロード状のちフェルト状、
管孔は淡黄色〜黄褐色で傷つけると青変します。
柄には網目模様などがありません。
その昔は、傘の裏側がヒダではなく、
たくさん穴があいたような「管孔」になっている、
イグチの仲間に毒はないと言われてましたが、
バライロウラベニイロガワリしかり、
アシベニイグチしかり、
現在では毒きのこが確認されているので、
どうぞ、くれぐれもご注意のほどを。
人は、毒きのこ、というと、
さも極悪人のように忌み嫌ったりしますが、
それは、たまたま、きのこの成分の一部が、
人間にとっては有害だった、というだけの話で、
きのこにはまったく関係ない話ですよね。
毒きのこの、子々孫々にわたる繁栄は、
個人的には大いに結構だと申し上げておきましょう。 |