キララタケ
食不適
写真と文章/新井文彦

ぼくは日本画、特に浮世絵が好きで、
原宿にある太田記念美術館へよく行くのですが、
あるとき、年配の男性が連れの若い女性に、
浮世絵の鑑賞方法を説明しているのが聞こえて、
なるほど!と思ったんです。

江戸時代には、真上から照らす、
蛍光灯のような明るい光なんぞ無かった、と。
(蛍光灯は今や絶滅危惧種ですが……)
浮世絵は、書かれた江戸時代のように、
暗い室内でロウソクを灯して見るのが乙であり、
最高の鑑賞方法なのだ、と。

アメリカ在住の著名な日本美術コレクター、
ジョー・D・プライス氏も、
絵画鑑賞には「光」に細心の注意を払うとか。
江戸時代の絵画を見る場合なら、
障子を通した自然光の色や明るさを意識する、
あるいは、暗い室内でロウソクを灯す、
など、当時の室内環境を模すそうですな。

考えてみれば、きのこを観察する場合も、
森ならではの「光」や雰囲気はとても重要です。
採取して持ち帰り、室内の蛍光灯下で見るきのこに、
森で見るほどの魅力はありませんからねえ。

このキララタケを撮影したのは真夏の8月。
苔むした大きなカエデの倒木で見つけました。
森が明るくなるまで、しばらくは、鑑賞タイム。
いろいろな角度から眺めて、撮影の構図も考えます。

キララタケは、初夏から秋にかけて、
主に広葉樹の切り株や腐朽木から発生します。
淡黄褐色の傘は、直径2〜3cmほどで、
切り込みのような放射状の条線があります。
はじめのうちは、傘全体が、
砂粒のようなきらきらのツブツブで覆われてますが、
徐々に消失してすっきりします。

傘の裏側のヒダは、白から黒に変化していき、
そのタイミングで傘全体が徐々に液化し始めます。
そう、ヒトヨタケの仲間なんです。

食不適。
食べられる、と書いてある図鑑もありますが、
ヒトヨタケ同様、アルコールと同時摂取すると、
激しい二日酔いのような中毒症状が現われます。
食べない方が無難です、はい。

ちなみに、先日、太田記念美術館を訪れたとき、
目玉の展示物だったのが、喜多川歌麿の『当時三美人』。
しかも、世界に2枚しか残ってないと言われている初版!
人目をはばかることなくしゃがみ込んで絵を仰ぎ見ると、
三美人の背景がきらきらと白く輝いて見えるんです。
(正面から見ても光沢に気づきにくい)
これが、白雲母(しろきら)摺り。

キララタケの名前の元にもなっている、
雲母(うんも)を粉末にしたものを顔料と混ぜ合わせ、
絵に光沢を持たせているというわけですな。

ちなみに、雲母は、鉱物の一種です。
キララタケから採れるわけではありません。
念のため。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
感想をおくる とじる ツイートする