クチベニタケ
食不適
写真と文章/新井文彦

小型で球状のきのこでございます。
その名も、クチベニタケ。
頭頂部の星のような形をした部分が真っ赤っ赤。
まるで口紅をひいたようなので、この名が。

きのこらしさがまったく感じられないので、
珍しいきのこだとお思いになるかもしれませんが、
それほど珍しいわけではありません。
日本では。

そう、世界的には、珍しい部類に入るらしく、
日本以外の菌類研究者に標本を差し上げたら、
きっと、狂喜乱舞の大喜びでしょう……。

傘を持つ一般的なきのこは、
傘の裏側のヒダやら管孔やらで胞子をつくりますが、
この手の丸いきのこは、袋の内側で胞子をつくり、
成熟すると外へ放出します。

さて、ここで、もう一度、
写真をじっくりご覧ください。
特に、右側のクチベニタケに注目。
なんか、持ち上げられてますよね。

クチベニタケをつまんで引っこ抜くと、
まんまるの本体の下に、
飴色で、細長い、麺のような偽柄(菌糸束)が、
何本もぶらぶらしてるんです。

その形、何かに似てませんか?
タコ?いやいや、火星人ですよ、火星人(笑)!
(占いは関係ありません)

火星は、マーズ・パスファインダーやら、
キュリオシティやら、探査機が次々に着陸して、
けっこうみっちり調査済みなので、
今の若い人には、タコの姿の火星人は、
あまり馴染みがないかもしれませんね……(涙)。
生命がいる可能性はまだ残されているそうですが。

さて、その、地球に舞い降りた火星人、
もとい、クチベニタケは、夏から秋にかけて、
ブナやミズナラなど広葉樹の森の崖地で発生します。
(この写真は青森県の奥入瀬溪谷で撮影)

直径は、5mmから1cmくらい。
表面は汚白色〜灰黄色、そして、頭頂部は鮮紅色。
鱗片状のささくれがあったりします。
触ると、ぷにゅぷにゅかと思いきや、
軟骨のような固い手触りです。

そうそう、この写真のクチベニタケは、
一般的なものより全体的に淡赤色なんです。
山と溪谷社の『日本のきのこ』に掲載されている、
仮称・ホオベニタケ(これまたかわいい名前!)
に近いような気がします。

とにかく、小さいきのこだし、何よりかわいいし、
食べようという気はあまりおきないと思いますが、
食不適、ということです。
念のため。

ちなみに、タコの姿の火星人のイメージを広めたのは、
英国のSF作家・ハーバート・ジョージ・ウェルズの、
『宇宙戦争』という小説だとよく言われてます。
でも、どうやら、実際のところは、
米国の天文学者、パーシヴァル・ローウェルが、
原形をつくったらしいです、はい。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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