ナナロク社さんでは
企画って、どうやって立ててるんですか？

何しろ４人しかいませんから、
まずは雑談みたいなものから話がはじまり
「いいね」となった企画を
基本的には、進めていくって感じです。

その過程で、ボツになっていくものも？

まあ、明確に「ボツ！」というよりも
そんなに響かない企画は
盛り上がらないし、
じょじょに、誰も話さなくなりますね。

みんなが強烈にやりたいと思わなかったら
そのうち消えていくので
進む企画だけが前に進むって感じです。

そのへんは、「ほぼ日」と似てますね。

あ、うれしい。

ぼくらも、誰かがものすごくやりたい企画は
だいたいオッケーになるし、
逆に、誰も動機や当事者意識を持ってない企画は
自然消滅してしまうことが多いので。

そうなんだー。

小鳥さんは、どう思っていますか？
ナナロク社さんのこと。

他の会社のことをあまり知らないですが
今回の『明星』は
ナナロク社じゃなければできなかったと
思っています。

作家のかたにそう言っていただけるのが、
出版社として、本当にうれしい。

どうして、そう思うんですか？

うーん、そうだなあ。

ふつうの大きな出版社ですと
営業の人と編集の人と、わかれていますよね。
だから、編集の人がいいと思っても
営業にダメって言われちゃいましたとなると、
それ以上、ぼくにはどうにもならなくて、
そこで終わりになっちゃったりして。

ええ。

でも、その、ナナロク社さんの場合は
一体化してるから、
もっとグイグイ行けるっていうか‥‥。

グイグイ？

いや、たぶん、４人がくっつき合ってるから、
誰かひとりを押したら、
ナナロク社全体がグイグイ押されると（笑）。

そう、それでなんだか、できそうになったり。
風とおしの‥‥良さ？

風とおしの良さ！　良い会社っぽい（笑）。

アウトプットの数って、どのくらいですか？

理想としているのは「年に８冊」です。

でも、なかなか理想どおりにはいかなくて
ある時期に集中しちゃって、
４ヶ月、まったく新刊が出なかったりとか
無計画にもほどがあるって感じですが
ここ最近、やっと形になってきてるかなと。

刊行点数も、増えてきてる？

ええ、じょじょにですけど。

ただ、去年は６冊しか出せなくて、
しかも、そのうちの４冊は
年の終わりの３ヶ月の間に出るという
バランスの悪い年でしたね。

逆に言うと、４人いて６冊や８冊というのは、
１冊１冊が、それなりに売れないと‥‥。

そうなんです。大変なんです（笑）。

ナナロク社さんのお仕事を見ていると
自分たちの納得した企画を
ていねいに、手をかけてつくっている感じが
ものすごくするんです。

そうでしょうかね。

出版って、マスメディアって言われますけど
なんて言ったらいいのか、
本来、もっと規模の小さいものだったような
気がしていまして。

ええ、ええ。

だとするならば
「粗製乱造」と言ったら言葉は悪いですけど
「１タイトルでも多く出す」今の感じが
何だかもったいないなあと
出版にがんばってほしいファンとしては、思うんです。

そのあたりのこと、どうですか？

たしかに一方では、そう言えると思います。

でも逆に、ちょっと思うのは
たくさんのものを次々につくれる環境って、
突然変異が起きる環境でもあるかなあ、と。

ああ、なるほど。

絶え間なく出し続けていくなかで
おもしろいものが、
いきなり「ポン！」って出てくるというか。

バット振り回してたら
ものすごいジャストミートしちゃった的な？

‥‥あるかもしれない。

出版って、その「粗製濫造」の部分に
おもしろみのひとつが
あるんじゃないのかなあっていう気持ちも
もう一方で、持ってるんです。

出版にかぎらずですけど、
昨今の「ていねいにやってます」という流れを
体現してるようなナナロク社さんから
真逆な意見が出るとは思いもよりませんでした。

おもしろいです。

ていねいさにこだわりすぎちゃうのも
「弱さ」になりうるのかなあと思ってます。

だから、今は年６冊とか８冊とかですから
ぜんぜんできてませんけど、
気持ち的には
「粗製濫造やったるぜ！」みたいな（笑）。

とにかく「打席に立ちたい」ってことですね。
よくわかりました。

でもたしかに、自分が手がけた本だったら
右から左へつくった本でも、
やっぱりかわいかったりするものですよね。

そう、時間がなかったから
心がこもらないってことも、ない気がする。

そのようななか、
ナナロク社が出した最大のヒット作が
今、目の前にいる
川島小鳥さんの『未来ちゃん』ですが。

はい。

写真集で「11万部」売るなんて、
じつにめずらしいことなわけですよね。

ええ、めずらしいと思います。

売れたという事実がすでにありますから
今では、ぼくらのような門外漢も
「これは、たしかに売れそうだ」とか
言えますけど
はじめて見たときは、どう思われました？

入社直後の坂下が
「こういう写真展があるんです」って
小鳥さんの『未来ちゃん』のＤＭを
見せてくれたんですが、
そこに印刷されていた写真１枚を見て、
「すごい。これは本当に、とんでもない。
　もっともっと見たい。
　今すぐにご本人に会いに行って、
　写真集にして出したいって言いたい！」
‥‥と、思いました。

当時のナナロク社さんって‥‥。

まだ会社を立ち上げて２～３年目、
社員の数はたったふたりの、
本当に名もない
吹けば飛ぶような出版社だったんですが
「ウチでやらせてください！」
ってお願いしたら
小鳥さん、快くＯＫしてしてくださって。

その後、展覧会が評判になって、
次から次へと、それこそ大手出版社からも
オファーが来たらしいんですが
小鳥さん、
「ナナロク社で」って言ってくれた。

小鳥さんは、なぜ？

んー‥‥なんでだっけ（笑）。

やっぱり、いちばんはじめに来てくれたし、
ナナロク社さん以外というのは
ぜんぜん、考えもありませんでした。

うれしいことですよね。

立ち上げたばかりの小さな出版社の、
若い社長さんにしてみたら。

だから、何としてでも、
絶対、最高の形にしなきゃと思いました。

写真集の初版というのは
せいぜい2000部、3000部の世界なんですが
はじめから１万６千部、刷りました。

おお、勝負に出ましたね。

はい、出ました。

しかも『未来ちゃん』でまだ10冊目で
実績のない出版社だったし
はじめての印刷所さんだったこともあって
印刷代を「先払い」しないと
印刷してもらえないような状況でした。

「信用」がないから。はぁー‥‥。

もう、お金をかき集めて、かき集めて。

あちこち駆けずり回って
ようやく集めたお金で印刷したんです。

よかったですね‥‥売れて。

ほんとに。

でも、11万部売れるなんて思いました？

んー‥‥まわりの人たちからは
「そんなに刷っちゃって大丈夫？」って
すごく心配されました。

そこまで売れた前例が
なかったわけですものね、それまでは。

でも「展覧会のＤＭを見た」という
一瞬の出会いが
あの『未来ちゃん』の、きっかけでしたか。

そうですね、本当に出会いのおかげ。

小鳥さんとの出会いはもちろん、
ナナロク社に坂下が入ったのも出会いだし、
ひとりひとりの人と、
真剣に出会っていったらできた本というか
人とのつながりのなかで
生まれてくれた写真集だなって思ってます。

川島小鳥『明星』より