むかしの暦で、いまを楽しむ。 旧暦と暮らす「ほぼ日」の12か月。
2006-08-08-TUE
旧暦:七月十五日
タイトルアイコン:風鈴 はじめにーー旧暦っておもしろそうだぞ?!
近松先生
近松
五月晴れってどういう意味だかご存知ですか?
東京の小金井にある、江戸東京博物館の別館、
「江戸東京たてもの園」に初めてお邪魔した5月の晴れた日、
まさしく、これぞ五月晴れ! というような太陽の
ふりそそぐ明るい応接室で、近松鴻二先生がそう言いました。
── はい、初夏の5月ならではの、
さわやかな晴れた空のことを言うんだと思います!
近松先生
近松
ほほう。‥‥では、五月雨というのは
どういう意味でしょう?
── ええと、5月に降る雨、ってことだと思うんですが、
晴れ間に降る弱い雨ってことでしょうか。

近松
なるほど。では‥‥うるさい、というのは
漢字でどう書きますか?
── 「五月蝿い」と書きます! 5月のハエですよね。
近松先生
近松
ではじっさいに5月のハエって、うるさいでしょうか?
── あ、5月にハエは、あまりいないですよね‥‥。
でもむかしは、5月にハエが、
いっぱいいたんじゃないですか?
衛生状態がわるかったりして。
近松先生
近松
そうですね、昔の五月には、
ハエがいっぱいいて、うるさかったので、
五月のハエ、という字が当てられたんでしょうね。
‥‥じつはいま出た3つの言葉、
『五月雨』『五月晴れ』『五月蝿い』の五月は、
すべて、旧暦の五月を指しているんです。
旧暦の五月は、新暦の6月くらいにあたりますから、
つまりは雨の多い季節なんです。梅雨の季節なんです。
── ええっ、‥‥ということは?
近松先生
近松
五月雨は、梅雨時の長雨で、
五月晴れは、梅雨の晴れ間のこと。
五月蝿いという字は、そんなじめじめした季節に
出るハエのすがたを漢字で当てたんでしょうね。
つまり、旧暦の時代の人と、現代のぼくらでは
「5月」と言われてイメージするものが
ぜんぜん違っちゃってるってことなんですね!
そうか、芭蕉の「五月雨をあつめてはやし最上川」も、
梅雨時の雨の多い最上川の様子をうたったんですね。
5月の雨をあつめても、たいした水量にはならないだろうと
思っていたんですが、それ、まちがいだったんだ‥‥。


明治時代の初期(明治五年)まで使われてきた
日本の古い暦のことを「旧暦」といいます。
(正確には、太陰太陽暦といいます。)
1873年の1月1日をもって
西暦が採用されてから、
姿を消したように思われているこの暦ですが、
じつは、いまの暮らしの中にも、
旧暦ならではの慣例や行事が残っています。
たとえば「立春」「夏至」「秋分」「大寒」などは、
太陽の運行に基づいて設定された
二十四節気(にじゅうしせっき)に出てくる言葉ですし、
ひな祭りや端午の節句、七夕なども
旧暦に由来している行事です。

しかし! 旧暦から新暦に移行したさいに、
ちょっと妙なズレが生じたまま、
いまも残ってしまっているものがあります。
「旧暦の日付を、そのまま新暦にあてはめた」ので、
ほんらいの時期とはずれちゃったんですね。

たとえば「七夕」。毎年7月7日に行なう行事です。
ことし、関東の梅雨入りは6月9日、
梅雨明けは7月30日でしたから、
7月7日はその期間にすっぽり入り、
ことしに限らず曇りや雨の日が多くて、
まず、天の川がきれいに見えることがありません。
そんなに毎年毎年織姫と彦星が会えずにいるなんて、
ちょっとかわいそうだよなあ‥‥と思うんですが、
近松先生によれば、それは違うんだそうです。
なんと織姫と彦星の会う日は、晴れることが多いのだと。

イラスト01


これ、旧暦の日付をそのまま
新暦に移行してしまったことによる、矛盾なんです。
旧暦の平成十八年七月七日は、
新暦に換算すると2006年7月31日。
そして梅雨明けは、旧暦に換算すれば
七月六日ですから、旧暦の七月七日の七夕の日には、
梅雨はあけていたことになる!
そうか、七夕を、旧暦で行えば、
その日が晴れる確率は高く、
織姫と彦星はちゃんと会えるはずだったんだ‥‥!
(よし、来年の「ほぼ日」の七夕は旧暦で迎えましょうか!)

近松先生によると、
「五月」や「七夕」をはじめとして、
旧暦を知っているとすんなり理解できる
日本の暮らし、日本の文化が、
あんがい、たくさんあるものなんだそうです。
きょうから始まるこのコンテンツでは、
そんなふうな「旧暦に由来する文化」について、
すこしずつ、近松先生にならいながら、
勉強していこうと思います。
そのなかから、現代の暮らしをたのしくするような
ヒントが見つかったらいいなあ、と思っています。

──と、ここまでがイントロダクション。
次回から本格的なコンテンツを始めますね。
まずは空に浮かぶ「月」についてのお話。
旧暦の時代に、いかに「月」が大切だったかを
教えていただきましたよ。
どうぞお楽しみに!
イラストレーター:玉井升一
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