北極レポート・・・3
今日からアザラシ船に泊まる。
最低限の荷物で防寒服を着たまま、
吹雪が通り過ぎるのを待つ。
《雨が降ったら傘をさし、嵐が来たら
ただジッと透り過ぎるのを待つ》である。
流氷の方向は晴れているらしい。
ヘリコプターに乗り込んだ。
オレはハイライトと、それより小さなデジカメ一個、
靴下の代えとPCだけだ。
母を探す声はもうほとんど聴こえて来ないが、
冷たい風に紛れて、2、3日遅れで生まれた仔の声が
途切れ途切れに聴こえる。
たった一晩で、アザラシの仔は
顔つきまで大人に成長していた。
昨晩は泣き叫び、もう帰ってこない母親に
決別をしたのだろう。
前回のレポートでゴマアザラシと報告したが、間違いだ。
タテゴトアザラシという種 類らしい。
腹這いになって近づくオレを、声にならない声で威嚇し
大きな涙目でこれ以上近づく なと訴えている。
ヤツはすでに野生なのだ。
オレも360°氷だけの原始の世界に横たっていると、
時差が解けていきそのまま1時間ほど午睡した。
グリーンランドから流氷に乗ってきた母アザラシ達は、
ここに漂着すると一斉に、
半径10メートルを出血しながら回転し、
胎盤と共に仔を産み落とすのだ。
その後二週間の絶食のまま乳を与える育児をすませ、
次の出産準備のために雄とヤル のだそうだ。
仔はだから早い親離れと自立することになる。
グリーンランドに大人として戻れるのは3割ぐらいで、
自立できなくて生きる学習の出来なかった仔は
死んでしまうのが、氷王国の野生というものだ。
イイ落日を観た。月は欠けはじめた。
二週間船暮らしの船乗り等とウォッカを呑む。
アザラシの仔が眠っていた氷のユリカゴのような
船のベッドに挟まって眠った。
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