北極浮遊・・・4
オレはアザラシ漁師の才能があるらしい
4日間で仔別れをして新しい雄と生殖に入った
ズキンアザラシの母は、
もうすでに氷の下で励んでいる筈だった。
まだ臍の緒が10センチほど残し、
四日間で丸々と栄養を蓄えたズキンアザラシの仔は、
放心状態で氷と空をゴロゴロしながら眺めている。
蓄えた栄養も使い果し、やがて氷が解ける頃になると、
氷の割目に泳ぎ去っていった母の後ろ姿を記憶していて、
海に入り追い回し自分で獲った魚を喰って生きていくのだ。
氷が仔を育てる<ユリカゴだ>し、
生きる導師でもあるのだろうナー。
腹這いになり両掌で氷を掻く姿が、
アザラシの母に生き写しなんだろうか。
オレは、腹式で吸い込んだ息を、竹に吹き込むように
細く吐きながら進む。
仔は鼻の穴を開閉して、
不整脈みたいな息をプフッー・・・プフッと吐いているのは
まだ知らない水中生活の呼吸を
イメージトレーニングしているのだろう。
そんな生活が始まったアザラシの生存は、
呼吸を止めているジカンの方が長くなるのだ。
泳げないオレは、氷上アザラシの仔となら同じ呼吸法だ。
尺八のロングトーンの稽古のようにしながら近づく。
仔の息遣いが聴こえる距離に入ったら、
仔の呼吸リズムに合わせるのだ。
アレレレッ・・・固まってしまったゾ。
これじゃ、簡単に捕まえられて
毛皮商人に美しい毛革を剥がされてしまうじゃないか。
オレはアザラシ漁師の才能があるかも知れんワイ。
それにしても、自立したばかりの仔には、
オレを同じ種類の生物と見たのかも知れな い。
『オレは漁師でないからお前を獲って喰ったりはしない。
だから<敵>ではないが、保護団体のヒトとも違うから
<味方>でもないゾ』と
黒目がち瞳を暫らく見ながら< 無言>を伝えた。
この仔は生き延びるのか、
生殖するまでに死ぬ方の側なのかは分らない。
オレは自分の終わりが必ず来ることは、
自慢じゃないが知っている。
アザラシに自慢しても始まらないが、
コヤツは生まれてくるなり
KUMA’S BLUEに包まれ、
その世界にただ淡々と激しく生きていくのだけは確かだ。
オレはまた山梨FACTORYに戻って、
わざわざ高熱量でKUMA’S BLUEの光りを創り、
不経済な生き方を続けなけりゃならんわい。
ただ淡々と激しくナ。
夢以外で二度と逢うことのないアザラシと写真に収まって、
泳げないオレはヘリで飛び上がりホテルに戻った。
スーパーで「アザラシの肉はないか」訊くと、
主人がレジの紙切れに簡単な地図を描き、
小さな漁村にある肉屋を小声で教えてくれた。
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