北極レポート・・・5
氷の春
ほとんどのアザラシは、
本能に従って仔離れを終わり氷から海に入り、
心置きなく次なる強い精子を獲得しているのだろう。
オス等は自分の種を宿すための子宮を求めて、
壮絶な血まみれのバトルを繰り返して いる。
本能を失い薄まった精子をばら撒く快楽だけの
ヒト等のセックスとは違った迫力を感 じる。
時々、吹雪いたりするが、
確実に気温は日々零度に近づき、
仔たちを乗せた氷も小さ くなっている筈だ。
もうオレはアザラシの流氷群には行かないが、
間もなく、程よく成長した
タテゴトアザラシの仔を捕獲に、漁師たちの出陣である。
一頭のアザラシが成長するには、
1.5トンの魚を喰うという。
アメリカやイギリスなどの
大きなお世話環境保護運動の規制されたアザラシ漁で、
増えつづけて800万頭になり、
すでに規制前を遥かに超えている。
そのためにヒトも入れた
食物連鎖も崩れて魚も獲れなくなっているらしい。
鯨と同じ 結末である。
何もないここで、5kmの雪原を走る犬橇に乗った。
森林の松の間を走り抜け
アザラシの氷原が遥か彼方に霞む岬に出た。
車の運転は出来 ないオレが、帰りには橇を操る。
犬が走りながら振りまく糞をウイヴィングでかわしながら、
橇のコントロールは出来た。
犬の速度がイイ。犬の目線で景色を見た。
犬は見てないと思うが、
樹木の表面を外気から守っいた厚いコーティングの氷から、
雫が滴り剥がれはじめて いた。
封じ込められた氷柱芽が膨らんでいるのだ。
岬の先端に棲む84歳になる
漁師の夫婦の家に
昨日買った去年のアザラシ肉を持って 遊びに行った。
もう引退したという漁師が押入れの奥から、
ムカシ撲殺に使った棍棒を見せてくれ、
自慢話を聞かされる。
手の延長である棒で小さい玉を打つ原始の撲殺方法は、
今でもプロ野球というゲームに残っていて、
まだそんな上手な仕草を一喜一憂して観ている21世紀だ。
時々、幸せ家族ゲームでも
ちょっと進化した金属の棍棒が用いられている。
原始のDNAはまだ残っているのか。
年老いたマダムが、
オレが持ち込んだアザラシの肩肉を玉葱といっしょに
伝統的な調 理法で料理してくれた。
ビールで肉を軟らかくするのは
山梨のイノシシ鍋と同じである。
それなりに美味いの だが、
ジャパン育ちのオレには味噌ならもっと合うと思った。
味噌や醤油は喰う為の重要な 文化なんだナ。
老人の自慢話よりマダムの料理が美味かった。
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