北極レポート・・・7 頭蓋骨に電気が走った。
午前8時半、モントリオール空港から小さなエアバス。
まだ寒いから化繊の防寒着を着ているヒトが多い。
これは歩くたびに摩擦で静電気が溜まる。
オレのコートも化繊だったから
静電気が充満していたのだろう。
狭い飛行機内、あとから乗り込んできた禿げ男が、
オレの後ろの席で
そのコートを脱ぎ上の荷物棚に入れたらしい。
オレの頭蓋に男のシャツの肘が触れた瞬間、
気持ちの良い電気が走り
男は「ワゥッ!」と後頭部で小さく叫んだ。
振向くと、男は肘を抑えオレ頭蓋を見下ろしタマゲテいた。
心臓が弱っていたら男は即死だったろう。
それでも目が合うと、
「ソーリー・・・」と気弱に言った。
オレも静電気が頭蓋骨を直撃したのは初めてだった。
時差ボケの頭にはイイ刺激だった。
5時間掛かってエドモントン。
4時間待ちで小さなビーチクラフト機で
フォートマクマレーへ。3時間の時差を超えて行ったのだ。
ここにきて猛烈な睡魔が襲う。
眠い。
うっかりすると眠りに落ちる。
ホテルに着くと、今宵のオーロラ観察ツアーの客は、
ジャパニーズばかりが108人と今度はオレがタマゲタ。
夜10時半、雪の郊外に出向くと大型バスが留まり
暗闇のそこら中がジャパニーズの年配の御婦人や
ニョショウたちだった。
三脚をつけた高級カメラを抱えて
大体似たような気配で興奮気味の彼女達は
場所獲りに、甲高い声で走り回っていた。
コツコツ貯めたゼニで、<自分探し>とやらの
メモリー作りで失なった11年を埋めようとでも思うのか。
虚しいタイム・トラベル。
皆出払った観察客休憩所の赤外線ランプを写した。
『ヤバイ景色』に気圧されたオレは、
だいぶ離れた場所に佇んで空を仰いだ。
今宵の満天の星空には何事も起こらない予感がした。
二尺四寸を取り出して夜空に<嘘玲>を吹き、
午前1時、さっさと切り上げてホテルに戻る。
ヤレヤレな一日だった。
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