Kuma
クマちゃんからの便り

北極レポート・・・9 飛び出すパイク

普段4時間眠れば十分のオレも、
昨夜は初めて8時間眠ってしまった。
極寒の中の時差を超えていく長距離の移動は堪えるワイ。
約束どおり朝9時にドラゴンが迎えにきた。
インデアンはやっぱりウソつかない。
今日の湖は白樺の林を走った30分ほどの距離だ。
昨日の柳湖の倍はあり大きな中ノ島もあった。
全てがデカ過ぎる。
「今日の穴はオレに決めさせてくれ」
「ああ、いいとも。60センチ以上なら3匹まで
 持ち帰りOKだよ。それ以下はベイビーだから、
 穴に戻さなくてはならない」
「わかった」
昨日の虹鱒の件もあったから今日のオレはコトバを慎んだ。
今日のパイク釣りの仕掛けは、
ミノー(3センチほどの小魚)を鉛のジグに鈎に刺すだけで、
後は時々誘うようにアクションを加えて静止させる。
また長いジカンが過ぎていく。
零下の白い湖上に冷たい小さな風が流れ、
空は雲ひとつ無く吸い込まれそうなKUM A'S BLUE。
ランチのデカいサンドイッチを頬張りながら、
今宵はオーロラが現れる確信である。
「ドラゴン。ネイテヴのお母さんは元気かい」
オレ少し退屈になり世間話に訊いた。
「オフクロはワタシ等6人兄弟を産んで
 ワタシが4歳のとき死んだ。
 フランス人のオヤジは当時44歳だったけど、
 16歳の娘と再婚して5人子供を作った」
「イヤイヤ、コレはコレは。突然、デッカイ話だわ」
オレは余計なコトを訊いて恐縮した。
「なあに平気さ。11人兄弟なんだよ、ワタシは」

ラインが張った。手応え充分だゾ。
ラインを取って手繰り上げると、
氷の穴からパイクが勢い良く飛び出して来た。
ドラゴンが「イイ型だ。OKだ」落ち着いた声で言いながら
巻尺を投げてよこした。
苔色に黄色い斑模様が雪を蹴散らかしている。計ると66センチあった。
その間にミノーを付け替えてくれた。
「オレが開けたこの穴、気に入ったな。イイ穴だ」
ホテルから持ってきたグラスにショーチューを注いで
一気に呑んだ。美味いなぁ。
白い世界で透明なスピリッツを呑む。
このためにこの液体は旅をして来たんだ。
スピリッツは湯や水で薄めてはイケナイ。
スピリッツはどこまでも生のままのスピリッツがイイ。
もう一杯注いで
「ドラゴンもお祝いだ、一口どうかい。
 日本から持ってきたんだ」
「ジャパニーズ・ウォッカだな」
と喉をゴクリとやって大きく頷いた。
後は50センチクラスが飛び出してきたがリリース。
もうどうだって良かった。
誰もいない極北の世界にこの瞬間を、
ここに居ただけでもう十分だった。
「そうだ、孫が3人いるんだ」
ドラゴンは誇らしく声も無く笑った。
「昨日、パイクは大好物だって言ったのは、ウソなんだよ。
 パイクを釣りたかっただけで、もう満足なんだ」
「ウソだったか」ドラゴンは少し困った顔になった。
「だから、ドラゴン。このパイク持って行って
 家で喰ってくれよ。プレゼントだ」
「美味いのになー。じゃあ、貰っていくよ」

2001-03-23-FRI

KUMA
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