Kuma
クマちゃんからの便り

北極レポート・・・10  オーロラの気配

夜10時半過ぎ、今日は絶好のコンデションだ。
北西の空の裾が淡いグリーンになった。
オーロラの始まりである。
真上を見上げると白い光がたなびきだした。
良く観ると縦横に幾筋も白い光が形を変えて、
消えてはまた現れる今晩は、
素晴らしい待ちに待ったオーロラ・ショウである。
まだまだ序曲だ。もっと色が現れて欲しいと思った。
それにしてもこんな寒い暗闇の中、
光りの様子が変わるたびにシャッターを押した。
しかし、デジカメにも、
デジタルヴィデオカメラにも写らないし、
バッテリーはあっさり放電してしまう。
小型カメラのフィルムも試してみた。
オレはすぐに、映像に遺すことを止めた。

頭蓋から唯一の露出した脳ミソである眼球の記憶に、
<絵にも描けない美しさ>
オーロラの光りを浴びるだけにしたのだ。
撮影困難なこの光りを映像に遺す事なぞ、
どんな意味があるのか。
観た証拠なのか。そんなモノはいらない。
ただ黙って見上げていたら、
遠くで単調な繰返しの太鼓の音が聴こえてきた。
ネイテヴ・インデアンが3人、
焚火を囲んで直径1メートルぐらいの太鼓を叩きながら、
アジアのメロディを含んだ節で唄っいだした。
オーロラの光りがもっと強くなる祈り だという。
太鼓のリズムを聴きながら
願いを込めて<嘘鈴>を吹いた。

震えながらまた外に出て見ると、
心持ち空のあちこちに淡い光が漂い始めた。
星が滲んだようになったのは、少し雲が出てきたからだ。
『マズイな』
まだ色の光りになってないというのに。
それにしても、
ネイテヴのとって<オーロラ>はどんな存在なんだろう。
1時半まで粘って空を観ていたが、
すっかり雲に覆われてしまったようだ。
何だか、不完全な今日のオーロラ・ショウだったが
<宇宙>が決めたことだ。
明日もある。きっと、今晩は長い序曲だったのだ。
しかし、オレがオーロラの元に
身を置いたことは確かである。

寒いから寝る。

2001-03-24-SAT

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