北極レポート・・・12
オーロラの光りを浴びるんだ
特に欲しいモノも無い。特に喰いたいモノも無い。
人生に<夢>なぞも持ったコトも 無い。
ニジェール・サハラ砂漠やモンゴル草原を浮遊したのは、
鉄の巨大なオブジェを創るためのゲージツ浮遊だったが、
今はただ極寒のゾーンを
アザラシ獲りの漁村やネイテヴ達の居留地を
クリアーな気分 で浮遊している。
こんな旅は久しぶりだ。
この旅に帯同したのはノートPCと小さなデジカメ。
コンパクト・カメラのシャッターは一度も押してない。
手間のかかるフィルムは
もうオレには要らなくなった道具だ。
3枚刃の剃髪用のカミソリ、着古したTシャツ、
パンツ少々、ハイライト20箱。
ただ<嘘鈴>を吹くための二尺四寸の竹一本、
本なぞ一冊も持たないし、
コンパクト音楽装置も要らない。シンプルである。
毛皮も頭髪も無いオレは、
作業服屋で身を包む防寒作業服と頭巾を買った。
出会ったヒトと、
目の前に現れる毛皮を剥がれた肉を喰う。
幾つも超えた時差で眠ると、
バカバカしい夢を何度か見たが覚えてはいない。
オレは防寒で身を包んで極寒を浮遊する。
極寒に生まれたアザラシは、ヒトに殺される
ネイテヴのシャーマンはドラムを打ち、漁師は歌う。
極寒の風がヒトを刺す。
極寒が累々たるジカンの全て蓋う。
グラント親爺の所から戻って、
部屋で夕方まどろんで居ると、
昨夜のオーロラを呼んでいた
シャーマンが今のジカンなら会えるという情報。
伝統的な円錐型のテントに通された。
真中に石で囲んだだけの炉で太い薪が燃えていて暖かい。
上座に<樹のスピリッツを持った>部族の長老が座って、
脇に同じ部族の昨夜のシャーマンと
ネイテヴの治療師が控えていた。
四大元素のこと、天と大地のスピリッツについて
話してくれるシャーマン。
オレの厄介な質問や要望に、
許す判断をシャーマンに与えるのが長老の役目である。
みんな静かな風のような声で話す。
「オレは今宵、パイクのいる湖まで行って、
完璧なオーロラを観たいと思っている」
オレの濁声は土方暮らしで培ったモノだから仕方ない。
シャーマンは長老の許可を貰って持ってきた、
大切な三つ編みのスイート・グラスに火を点けた。
嗅覚の無いオレには草の匂いは伝わらなかったが、
温かい胎内に回帰したようなジカンだった。
帰り際にシャーマンが風のような声で
「パイクの湖だったね」
頷くオレにスイート・グラスの燃えさしを
手渡してくれた。
「アリガトウ。
KUMA'S BLUEの光りのカタマリ、
今度写真送るからナ」
着流しで下駄履き、
オーロラの光りを浴びながら
<嘘鈴>を吹く準備にかかった。
すっかり晴れ渡った夕空。気温零下26℃。
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