Kuma
クマちゃんからの便り

北極レポート・・・13 
ついにオーロラ・オペラ現れた

気温零下30℃、体感温度37℃。
あれだけ雲ひとつ無いイイ夕焼けだったのに、
晩メシを喰ってレストランの外に出た午後9時半、
星が霞んでいるじゃないか。
しかし、オレはシャーマンとのテントでのジカンで
確信があった。
ホテルに戻るすがら、
なんともう薄い緑のカーテンが空に走り初めていた。 

こうしちゃいられない。
防寒服を完全装備して、二尺四寸の竹一本、
着流しを抱えて車に乗った。
やっぱり、パイクの湖の方面は雲が切れていた。
湖のド真中に止まると、
遠くの岸辺に自動車道のオレンジ色の水銀灯がひとつ、
ふたつ見えるだけだ。
カメラは部屋に置きっ放しにして来た。
風がある。湖の氷の表面を雪混じりの風が撫でていき、
鋭く優しく唄うような音が伝わってくる。
風は薄い雲をたちまち彼方に飛ばした。
北の空にあらためて緑の光の束が現れ、
見る間に天空まで駆け上がった。
体感温度は40℃を超え、寒いを通り越して痛い。
空の四方八方に激しく飛び散っていき、
消えてはクリアーに現れ移動しながら形を変えていった。
アザラシの仔、オスとメス、老人たち、矢の形。
シャガールもオーロラを見たのかも知れない。
凍りそうな眼玉の瞬きさえやめて見つめていた。
オーロラ・オペラは天空全体に止め処も無く続いて、
もう現象などではなかった。
空が恐ろしいほど生きているのだ。
オレは車の中で着流しに着替えてオーロラに飛び出して
<嘘鈴>を吹いた。
冷え切った管は途切れがちだったが、
風の音にシンクロして後頭部辺りに
金属的な鋭い光の音を感じていた。
しかしもうダメだ。
指が、耳が凍りついてくるのが分った。

車に飛び込み、首や腹の体温で解かす。
血の流れを正常にしてまた飛び出して吹く。何度か繰り返した。

オレはどうしてこんなにしてまで光と同化したいのか、
分らない。
極寒の中、行けるところまで行ってみたかったのだ。
ただそれだけのコトで深い理由なぞ無い。

オーロラを充分あびて何とか部屋に戻ったのは
午前3時ちかくになっていた。 

2001-03-26-MON

KUMA
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