Kuma
クマちゃんからの便り

ヴェネチア浮浪・・・ No.7
ムラーノで初作品


HELLO! I am KUMA!

昨日オレは、ムラーノの青年マエストロ達が発行する
<VETRO>の正会員に早くもなっちまったのだ。
正会員と言っても雑誌の年間購読を契約した上に、
賛助金を少し払うと自動的に賛助会員というわけだ。
ムラーノ島への入場料のつもりでゼニを払った。
するとTSUCHYが、明日作品を創らないかと言う。
オレは宙吹きなぞやったこともないからと少し引いていた。

「六月にムラーノとミラノで
 <コップ>というテーマで
 会員の展覧会をやるから、是非に」
TSUCHYにそう言われて引っ込んでる場合ではない。
「僕もマエストロ達もフォローするし、
 傍でデザインを指示してくれれば心配ない」
「やろうじゃないか」
オレはあっさりOKした。
「朝八時からに来るかい」
オレは決めると早い。
「いや、七時から毎日僕の作品をやっているから
 十時からにしましょう」
と言うコトで水上バスできっかり朝十時。
昨夜は久々に六時間も眠って、
朝起きてからデザインを考えた。
ケンドーに貰ったレポート用紙にイメージをデッサン。
ムラーノに来たからといって、
オレがジャパンのガラス工芸家と同じではショーガない。
<コップ>のテーマでゲージツするのだ。
締め切りは迫っているが、
ここで吹いてもらったモノをニッポンに送ってもらい、
山梨FACTORYのオレの道具で
削ったり研磨して仕上るのだ。
マエストロたちにも分り易く
デッサンにの各所に寸法を入れた。
TSUCHYの作品に時間が掛かっていた。
彼はそれでもマスプロ的になりがちになる
マエストロの作業に、語気を荒げて注意する。
マエストロも大声と手振りで応酬。
フランコはじめマエストロ達三人を相手にTSUCHYは、
自分の作品には絶対に妥協しない。
イタリア語での遣り取りは、迫力満点だった。
オレと眼が遭ったマエストロが、
短い時間だけ悪戯っぽく笑った。
その間もポンテ竿を操るマエストロは手は休まないのだ。
十分ほどのバトルが止んだ。
普段呑まないタバコに火をつけたTSUCHYは、
水を飲む。マエストロ達も水を飲む。
次の瞬間マエストロもTSUCHYも
いつものトーンに戻って何事もなく、シゴトを続けていた。

自分が生きることにそれぞれが誇りをもっているから、
意見を言いそれぞれが相手の意見も聞き、
違いを確認して認める大人達は終結の方法も
知っているのだ。
ムラーノではこんなこと当たり前に一〇〇〇年も続けて、
自分の哲学を身に付けてきたのだろう。
オレのシゴトまでまだ時間があった。
オレは尺八を持って、フランコが使ってきた
古い窯の上に上がって<嘘鈴>を吹いて御祓いした。
フランコの鳥たちが一段と騒いだ。
オレもテンポをあわせて音に、
ムラーノに感謝の気分を込めた。
「これを創りたいんだ。
 しかし、ここでの吹きで完成ではない、
 オレの工場でオレの道具で仕上ることが
 タマシイを込めることなんだ」
TSUCHIの通訳をマエストロが頷きながら聴いていた。
オレも彼らに張り付いて、
「ヨシッ!」「もっともっと」の指示を出し、
カーブをチ ョークで床に書く。
一時間半ほど掛かった。
「OK!グラッチェ!」
徐冷炉に入った。
大満足だ。
削ったり研磨の削り代を含んだ
二十五センチ径の<盃>のイメージだ。
「コップのテーマには大きかったか」
TSUCHYに訊いた。
「他のヒトは<コップ>を創ってくるから、
 展示のときに少し不平があるかも知れない」
「コップといえば液体を入れて呑む道具さ、
 大きい水呑み男だっているゾ」
「相撲の優勝者が祝い酒を呑むときのは大きいよね」
TSUCHYが援護してくれた。
「クマさんのが中心にくるからみんなビックリするだろう」



「TSUCHY、これをオレの方法で仕上るのがミソだ。
 仕上てすぐに送り返すから ヨロシクナ」
フランコが
「笛の音、よかったゾ、ヤクーザ」
とうとうフランコはオレをヤクザにしてしまった。
「グラッチェ、マフィア・ボス」

2001-05-15-TUE

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