Kuma
クマちゃんからの便り

ヴェネチア浮浪・・・No.8
アリベデルチーTSUCHY


HELLO! I am KUMA!

夜六時といっても昼間と同じ明るさだ。
窓の外でオレを呼ぶ。
眼下のテラスでTSUCHYが叫んでいた。
「インタビューの約束の時間です。
 行きましょうか」
降りていくとロビーですでにTSUCHYが待っていた。
記録ヴィデオを撮りつづけるケンドーと三人で路地を往く。

広場でガラスの雑誌<VETRO>の
端正な顔立ちの記者と落合い、
レストランで彼のインタビューを受けた。
彼は代々続く大きなガラス工房の跡取ムスコだが、
ガラス職人より美術の記者を選んだらしい。
五人のムラーノ・マエストロ等と話した時、
彼も同席していたのだ。
その時の話をもうレポート用紙三枚に
ビッシリと丁寧な字で書き込んでいた。

「いくつか補足的に訊きたいコトがある」という。
オレがヒカリを求めてムラーノまで来たワケ、
<KUMA'S BLUE>の意味、
ガラスに出会うまでのいろいろな人生のジカン、
優しい顔で根本的なコトに丁寧に迫ってくるのだ。
オレも普段ジャパンでは、
自分のゲージツのことなぞヒトに話さないが、
彼の真摯な好奇心にはキチンと話した。
「次回は編集済みだからその次の号に載せるつもりです。
 ヴェネチアでの展覧会は特集しましょう」
心地イイジカンが過ぎて、
オレのシゴトにますます興味が湧いていると
言い残して帰っていった。
泣かせるネ、青年。

そのレストランで席を変えて
TSUCHYと<最後の晩餐>にした。
「ヨメのアンは来るんだろう」
「イタリア特集をする日本の雑誌から、
 レストランの写真と記事を頼まれていたんだけど、
 送った写真の縦横がレイアウトに合わないからと
 撮りなおしだ。カリカリしていたから無理だろう」
なんてコッタ、バカ編め。
締め切りに追われレイアウトだけを済ませて、
隙間に合わせて写真を嵌め込むだけで
トータルな頭脳がない無能モノの仕事である。

フランスでコックの修行をしたこともある
TSUCHYのメニュー選択は、
オレの舌にジャストミートした。
シャコ、生ハム、アンティチョークの前菜、メインは平目だ。
食前酒は桃のシャンぺーンをカクテルした<ヴェリーニ>。
濃厚でちょっと酸味が強いイタリア赤ワイン。
唾液がふんだんに放射した口腔。
デザートはジェラートの皿に
無花果のソースを添えてもらった。
視覚と味覚だけで充分だが
こんな時だけは嗅覚が欲しいと贅沢なコトを思った。


TSUCHY

しかし、日常的には自分で作った
銀シャリの弁当で過ごすオレが、
美味いもの含んだ口でゲージツの話に盛り上がるのは、
非日常のもっと贅沢な祝祭的なジカンだった。
芸人が本格的な演奏する真っ暗になった
サン・マルコ広場を横切り、
暗い路地を往く。
石畳が揺れていた。
イイ酔い心地だ。
「いっ時も緩みのない、
 しかも、
 こんなにリラックスして過ごした、
 オレのゲージツの新しいスタートに感謝してるよ。
 また来るよ」
ホテル前でTSUCHYと堅い握手。
「アルべデルチー
 チャオ、アンにもヨロシク伝えてくれ」

2001-05-16-WED

KUMA
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